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 私は、エルード様とともにとある部屋の前まで来ていた。
 そこは、シャルリナ様の自室であるようだ。

「あの……自室でいいのですか?」
「ああ、あいつはここで構わない」

 今まで会った人達は、ゴガンダ様以外は客室だった。
 だが、彼女だけは自室である。それで、本当にいいのだろうか。

「というよりも、あいつは基本的にここから出てこないのだ。故に、ここを訪ねるしかない」
「そうなのですね……」

 どうやら、彼女は部屋から出てこない人間であるらしい。
 人見知りだけではなく、引きこもりでもあるようだ。
 なんというか、益々彼女に会うことが心配になってきた。今までと違い、彼女が大丈夫なのかという心配である。

「……それで、あいつは何をやっているのだか」

 エルード様は、少し怒っていた。
 先程から、彼は部屋の戸を叩いている。だが、中から反応が返ってこないのだ。
 もしかして、中で何かあったのだろうか。そう思った私だったが、エルード様の反応と今まで聞いたシャルリナ様のことから、そうではないことはなんとなく理解している。
 恐らく、シャルリナ様は無視しているのだ。

「……ここを開けろと言っているのだ。聞こえていない訳ではあるまい。早く開けろ」
「……」
「このまま開けなければ、俺が退くとでも思っているのか? ならば、俺が本気だということを証明してやろう」
「何をするつもりですか?」

 エルード様が意味深な言葉を言ったためか、中から初めて声が返ってきた。
 その声は、少し震えている。今までのことを考えて、恐れているのだろうか。

「この戸を蹴り破ってやる」
「いや、流石にそれは困ります」

 エルード様は、武力に頼るつもりだったようだ。
 当然のことながら、そんなことをされたシャルリナ様は困ってしまうだろう。
 彼女は部屋に籠っていると聞いているので、戸が壊れるのは避けたはずである。それを計算して、エルード様は提案しているのだろう。

「実は……私、今戸の前にいます」
「何?」
「お優しいお兄様は、可愛い妹を蹴ることはできませんよね? だから、蹴られると困ってしまいます」

 しかし、シャルリナ様も一筋縄ではいかなかった。
 確かに、彼女が戸の前にいるなら、エルード様は蹴りにくいだろう。彼女を傷つけてしまうことになるからだ。
 もっとも、彼女が本当に戸の前にいるかどうかはわからない。咄嗟に出た言葉であるように思えるので、それがはったりである可能性はある。
 だが、はったりだったとしても迂闊に動くことはできない。彼女がいるかもしれないという事実は、充分にエルード様を牽制できるはずだ。
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