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 私は、エルード様と一緒に馬車の前まで来ていた。
 荷物を積み終わり、これでいよいよこの屋敷ともお別れだ。

「さて、このまま馬車でこの屋敷を去りたい所だが、もう一つやることがある」
「やることですか?」
「お前の借金は、我々が負担することにした。既に金銭の受け渡しも終えている。故に、借用書をもらわなければならない」
「借用書ですか……確かに、返してもらわなければいけませんね」

 エルード様の言う通り、借用書はもらっておかなければならないものである。
 そのことに、特に違和感はない。ただ、彼の表情が少し気になった。エルード様は、少し神妙な顔をしているのだ。

「……どうかしましたか?」
「これは俺の思い過ごしかもしれないが、奴は借用書を持っていない可能性がある」
「え?」
「お前と話す前に、俺はボドールと話をしていた。その際、借用書の話をした所、奴は少し焦っていたのだ」
「それは……」

 エルード様の言葉に、私は少し驚いていた。
 借用書がない。もしそんな事実があるとしたら、それは何を表しているのだろうか。
 私は額から、ゆっくりと汗が流れて来る。それは、私があることを考えているからだ。

「……エルード様、実はずっと気になっていたことがあるのです」
「なんだ?」
「母は、ゲルビド家に仕えていました。それには、祖父母の借金が関係している。それは、私も知っていました。母から直接聞いた訳ではなく、近所の人達がそういう話をしているのを何度か聞いたのです」
「ほう?」
「ですが、私の母は死の間際まで、借金のことなど言っていませんでした。そのことが、私はずっと気になっていたのです。普通に考えたら、私に何か一言でも言い残すとは思いませんか?」
「……確かに、そうだな」

 私が考えていたのは、絶対にあってはならない事実である。
 だが、色々と状況を整理していくと、それはとてもしっくりくる結論なのだ。
 最も、それは私の主観でしかないかもしれない。だから、目の前にいるエルード様に、相談する必要があるのだ。

「私がラーファン公爵家の人間であると知って、その疑念はもっと深まりました。借金が残っていて、自分が死ぬというなら、母はラーファン公爵家を頼ると思うのです」
「ほう……」
「母は……優しい人でした。そんな母が、私に借金を背負わせたまま亡くなるなんて、どうも納得できなかったのです。だから、もしかしたら……」
「……お前の母親は、借金を既に返済していたということか」

 エルード様の言葉に、私はゆっくりと頷く。
 母の性格から考えて、その結論が最も納得できるのだ。
 もっとも、それは私の理想でしかないかもしれない。私が母をよく理解していなかっただけで、本当はもっと別の理由だった可能性もある。
 だが、私は母を信じたい。あの優しい母が偽りではなかったことを、私は信じたいのだ。

「……ついて来い」
「え?」
「お前の結論が正しいかどうか、確かめに行くぞ」
「……はい」

 私は、エルード様について行く。
 これから、ボドール様の元に行き、真実を確かめるのだ。
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