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9.水面下での動き

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「……正直言って、今回の件は忌々しい限りだわ」
「サリーム様……」
「伯父様……いえ、国王様も昔はあのような人ではなかったのだけれど、ね」

 サリーム様は、少し苦しそうな顔をしながらそう呟いた。
 そこには、国王様に対する親愛のような感情が伺える。つまり彼は、少なくともかつては良い王だったのだろう。
 それは私も、なんとなくわかる。なぜなら、今回の事件が起こるまで彼の評判は良かったからだ。

「ただはっきりと言って、ロメリアに対する愛情だけは異常だった……末っ子で初めての女の子で、亡き伯母様にそっくりなあの子を国王様は溺愛していたの」
「それはレルバル様からも似たような話を聞きました。その結果、ロメリア様がとてもわがままな性格になったということも……」
「ええ、その通りよ。ロメリアは、どんどんと増長していった。子供の頃は、あの子も純粋だったのだけれどね。父が自分を特別扱いしていると理解できるようになったからかしらね。あの子は怪物になってしまったのよ。伯父さまも同じようにね」
「怪物……」

 そこでサリーム様は、目を瞑った。それはまるで、何かを考えているかのような仕草である。
 そして彼女は、ゆっくりと目を開けた。その顔はとても真剣で、同時にとても冷たい。

「怪物というものは、討伐されるべき存在だと私は思っているわ。だから、私達ウェルメノン公爵家は、あの二人を討伐するつもりなのよ」
「討伐? それって……」

 私は、思わず言葉を失っていた。
 あの二人を討伐する。それはつまり、王家と戦うつもりということなのだろう。
 国王様の弟であるウェルメノン公爵家が、王家に牙を向く。それはとても恐ろしい戦いが始まることを表している。

「……どうして、それを私に?」
「……あなたが信頼できる人だと思っているからよ」

 私は自らの額から汗が流れているのを感じていた。
 しかしそれは仕方ないことだ。この国を揺るがす事実を知らされて、平静でいられる訳がない。

「はっきりと言ってしまえば、ウェルメノン公爵家にとっても今の状況は良くない状況なのよ。国王の弟である私のお父様は、伯父様を切り捨てなければウェルメノン公爵家も巻き込まれてしまうと判断したの」
「……王国では既に国王様に対する反感が高まっているということですか?」
「ええ、その通りよ。既に水面下で事態は進んでいるわ。お父様は、その中心人物になっているの」
「なるほど……」

 当然といえば当然なのかもしれないが、やはり国王様の横暴な振る舞いに対する反感はかなり高まっているようだ。
 その反感が、親族であるウェルメノン公爵家に向く可能性は高い。
 それを避けるためには、自らが先導するのが一番だ。ウェルメノン公爵は状況的に、兄を切り捨てざるを得なかったのだろう。

「ルドベルド様やレムバル様は、どうなるのでしょうか?」
「……二人に関しては、こちら側に付けば寛大な措置が取られると思うわ。逆にあちら側に付けば、どうなるかはわからないわね。私としては心苦しい限りだけど」

 国王様とロメリア様は、今回の事態を引き起こしたため敵と認定するしかない。ただ、第一王子と第二王子は必ずしもその対象という訳ではないようだ。
 できることなら、色々と頑張ってくれていた二人には無事でいて欲しい。
 ただ、実の父親と妹を切り捨てることができるのかは、少々微妙な所ではあるだろう。いとこであるサリーム様だって辛そうな顔をしているし、そう簡単ではないはずだ。

「まあ、二人はずっと伯父様に抗議しているみたいだし、悪いようにはならないと思うわ。そもそもお父様は、伯父様とロメリアにも過度な罰は与えるつもりがないみたいだし……」
「そうですか。それならなんというか、安心することができます」
「……二人に良くしてもらったの?」
「レムバル様に良くしていただきました。ルドべルド様も、尽力してくれていると聞いています」
「そう……二人は変わっていないみたいね」

 サリーム様は、笑顔を浮かべていた。
 その笑顔からは、二人に対する親愛のような感情が伝わってくる。
 これなら、悪いことにはならないかもしれない。二人は、現状国王様と敵対関係にある訳だし。

「さて……まあ、最終的に私があなたに言っておきたいことはただ一つだけよ。あなたはしばらくの間、自分の村で大人しくしていて」

 そこでサリーム様は、私の目を見てそう言ってきた。
 それはつまり、私を今回の騒乱に巻き込みたくないということなのだろう。その表情から、彼女のそんな思いやりが伝わってくる。
 やはりサリーム様は、私のことを友人だと思ってくれているのだろう。それはとても嬉しかった。

「わかりました。そうさせてもらいます」
「そう……それなら良かったわ」

 サリーム様は、私に再び笑顔を見せてくれた。
 こうして私は、しばらくの間村で大人しくしていることを決めるのだった。
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