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29.自由な暮らし

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 大自然の中で、私はゆっくりと深呼吸をした。
 ここで暮らし始めてからしばらく経つが、やはりこの辺りの空気は澄んでいる。

「本当にこの辺りは空気が綺麗ですね」
「ええ、そうですね。お陰で僕の体も少し良くなっている気がします」

 私の言葉に、ディレンさんはゆっくりと頷いてくれた。
 この地に来てから、彼の魔力中毒の症状も少しだけ良くなったようだ。もちろん、魔力中毒は完治しないと聞いているため、それは彼の気分の問題というだけなのかもしれないが。

「でも、本当に良かったんですか? 私と一緒にここに来るなんて、あなたにとっては大きな選択であったでしょう?」
「ええ、まあ家族には少し申し訳ないとは思いますが、僕はあなたとともに生きていきたいと思っています」
「そうですか……ありがとうございます」

 ディレンさんは、私とともに生きることを決めてくれた。この辺境の地で、たった二人だけの生活。それを選んでくれたのだ。
 それがとてもありがたく嬉しい。本来であれば、私はこの地に一人で来ることになっていたはずだからだ。

「しかし、驚きましたよ。まさか、カークス殿下がこのようなことを考えていたなんて」
「ええ、それに関しては私もです。覚悟していたんですけどね……」
「やはり、妹を犠牲にするなんて、カークス殿下にはできなかったのでしょうね。本当に彼は優しい方だったのですね」
「そうですね。そう思います」

 公的に私は亡くなったということになっている。レクンド王国やその周辺国は、そう伝わっているはずだ。
 だが、私は確かに生きている。カークスお兄様が、私を生かしてくれたのだ。

「私の死を偽装する……それは簡単なことではなかったでしょうね」
「ええ、それでも特に問題は起こっていないのですから、カークス殿下の手腕は見事なものとしか言いようがありません」
「そんなお兄様ともう気軽に会うことができないのは少々悲しいですね……ああ、すみません。ディレンさんの前で、そのようなことを言うべきではありませんよね」
「いえ、お気になさらないでください。僕が自分で決めたことですから」

 ディレンさんも、王城内の事故によって亡くなったということになっている。その真実は、彼の家族にすら伝えられていない。
 だから、カークスお兄様に会えないなんて嘆いてはいけないのだ。彼はもっと辛い思いをしているのだから。

「そのように悲しまないでください。僕は今、幸せだと思っています」
「……そうなのですね」
「ええ、これからは二人で頑張って生きていきましょう」
「……はい」

 私は、ディレンさんの手を取りゆっくりと頷いた。
 彼の想いが伝わってくる。彼は、私が自由に暮らせる今の環境を喜んでくているみたいだ。その優しさがとても嬉しい。
 こうして私は、第一王女も聖女をやめて、ただのアルネシアとなった。だが、私の人生の中で今が最も幸せだ。愛する人と愛してくれる人と自由に生きていけるのだから。
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みんなの感想(7件)

Vitch
2022.11.15 Vitch

ゲルトンをどうしたかがあいまいですね。
そこをもっと読みたかった。

木山楽斗
2022.11.16 木山楽斗

感想ありがとうございます。
彼は精神を完全に破壊されました。
その辺りの掘り下げが足りなかったなら申し訳ありませんでした。

解除
祐
2022.11.13

カークスはアルネシアの犠牲で王城で起こった事を有耶無耶にするつもりか。

はたまた、混乱の元凶(アルネシア)を処理する準備はしてあります、命令があれば直ぐに的に「自分が納めました」的にするつもりか。

最新話読んだらそう考えちゃった。

木山楽斗
2022.11.14 木山楽斗

感想ありがとうございます。
彼が何を考えているかは今後明かしていきたいと思っています。
今後の展開に、ご期待いただけると幸いです。

解除
Vitch
2022.11.12 Vitch

【妄想QA】
Q 王女に魔力探知魔法を使った事自体は問題無いのですか?

A この世界では、異性に許可無く魔力探知魔法を使う事は、着替えを覗く事と同等の扱いになります。
 ゲルトンが魔力探知魔法を使った事が公になった場合、ゲルトンは王女の着替えを覗くような人物とみなされ、またその実家は《そのような》教育をしていると、処罰されます。

木山楽斗
2022.11.13 木山楽斗

感想ありがとうございます。
単純に人に向かって魔法を打つことがそもそも失礼にあたると思います。

解除

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