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1.閉じ込められし聖女

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「はあっ……」
「む?」

 自室に戻って来た私は、ゆっくりとため息を吐いた。
 そんな私に怪訝そうな瞳で見てくる人がいる。それは、私の兄であるカークスお兄様だ。

「カークスお兄様、どうしてそんな視線を向けるのですか?」
「まあ、そのため息の理由は聞きたい所ではあるが…………とりあえずその姿はやめてくれないか? 自分が目の前にいるというのはどうも落ち着かない」
「そうですね……それでは、そうしましょうか。ああ、ため息は別になんでもありませんよ。ただ、少し疲れたというだけです」

 私は自らの変身魔法を解き、私自身に戻った。
 レクンド王国の第一王女であり、聖女であるアルネシア。この姿は、私にとっては不自由なものだ。この姿の私には、自由がない。

「見事なものだな……変身魔法はとても難しい魔法だというのに」
「これくらいできなければ、聖女なんていう地位には就けないでしょう?」
「聖女か……」
「ええ、聖女ですよ。私は……」

 聖女という地位は、私を縛り付けているものだった。
 その地位に就いてから、私はこの部屋にずっといる。ここに閉じこもって毎日を過ごす。それが聖女としての私に与えられた役目だ。

「お兄様には感謝しています。こうして、外に出る機会を作っていただけるのは私としても嬉しく思います」
「……君が本気を出せば、外になんていくらでも出られると思うが」
「私は、争いを望んでいません。だから、今の待遇を受け入れているんです。余計な波風を立てるのは良くないでしょう?」
「それは、そうかもしれないが……」

 私の力は、大き過ぎるらしい。持って生まれた才能が人並みを外れていたのだ。
 その気になれば、私はこの国の魔法関連の業務を一人で賄える。それ程の魔力が、私の中には宿っているのだ。
 だが、そうしてはならないとお父様に言われている。私はこの力を使わないように言われているのだ。

「お飾りの聖女……私はそのように扱われている方が都合がいいのでしょう?」
「ああ、その魔力を悟られるのはまずい。父上は、そう思っているようだ」
「実際に、まずいと思います。強大な力は人を狂わせますから」
「……確かにそれはその通りだ。人智を越えた魔力、君を利用しようとする者が現れると父上は考えているのだろう。いや、そうでないな。父上でさえ、その力を利用するかもしれないと恐れているのかもしれない」

 お父様は私のことを怪物であると言った。強大な力を持つ怪物は、人々を魅了する。その魅了によって争いが起こる可能性。それを危惧したお父様は、私をここに閉じ込めたのだ。
 私を聖女という役職に就かせたのは、自分が過保護な国王であるという印象を与えるためであるらしい。
 ただ閉じ込めておくよりも、特別な役職を与えてそれが果たせないから出てこないという構図を作りたかったのもあるだろう。
 とにかくお父様は、私の力が表に出ないようにしているのだ。
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