公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
80 / 80

第64話 これからの私は

しおりを挟む
 私はレティとともに、お兄様の元に来ていた。
 私達に、何か用があるらしい。別に、それ自体は珍しいことではないのだが、告白後に呼び出されたため、色々と緊張してしまう。

「さて、お前達を呼び出したのは……少し、言いたいことがあるからだ」
「は、はい……」
「おや……」

 お兄様も、いつもと少し様子が違う気がする。
 やはり、私の告白により、精神が乱されているのだろう。
 そのことについては、非常に申し訳なく思っている。

「といっても、今日言いたいことがあったのはルリアだけだ。ただ、レティも、この場にいてもらう必要があると思ったから呼び出した」
「私に……ですか?」
「なるほど、大体わかりました」

 どうやら、用があるのは私だけだったようだ。
 ただ、レティにも聞いてもらう必要があることらしい。その言葉で、レティは全てを理解したようだが、一体どういうことだろう。

「ルリア……俺は、お前の告白に対して、正面から向き合えていなかった」
「え?」

 お兄様が口にした言葉に、私は驚いた。
 まさか、お兄様からそのことに触れてくるとは思っていなかったからだ。
 しかし、正面から向き合えていなかった訳ではないだろう。お兄様は、私の告白にきちんと答えてくれた。それが、正面から向き合うということではないのだろうか。

「レティに言われてわかった。俺は、お前に対して、曖昧な答えばかりを出していた。故に、俺の正直な気持ちをお前に伝えよう」
「しょ、正直な気持ち……」

 お兄様の言葉に、私は困惑した。
 まず、レティがお兄様にそのようなことを言ってくれていたことが驚きだ。私の告白を聞いていたことは教えてもらったが、私のために行動していてくれたことはとても嬉しい。
 しかし、曖昧な答えとはどういうことだろうか。そこは、少しわからない部分だ。

「し、しかし、お兄様が言ったことは、別に曖昧な答えという訳ではなかったと思います」
「いや、違う。俺はお前に、本心を打ち明けていない。それは、お前の勇気に対する侮辱だ。故に、俺は全てを明かすことにする」
「お兄様……」

 その言葉で、私はやっと理解できてきた。
 お兄様が曖昧だと言ったのは、自身の本心を打ち明けていなかったかららしい。
 それなら、私はそれを聞くべきなのだろう。お兄様の言っている通り、これは告白に対する対価なのだ。
 お兄様の本心が、どのようなものかはわからない。だが、私はそれを正面から受け止めるしかないのだ。

「ルリア、俺はお前のことを愛している。それは兄妹としての関係だけではない。だが、男女の関係とも少し違うものだ」
「少し違う……?」
「かつて、俺はお前に救われた。俺は、お前によって一人の真っ当な人間になれたのだ。故に、俺はお前のことを一生守っていくと決めた。それが、俺がお前にできる一番の恩返しだと思っていたからだ」
「お兄様……」

 お兄様は、私に対してそのようなことを言ってくる。
 お兄様がそのように考えていたことを、私は初めて知った。
 私の存在がお兄様を変えて、そのことからお兄様は私を守ってくれていた。それ自体は、とても嬉しいことである。

「だが、その気持ちはすぐに切り替わった。俺はお前のことを、大切な妹だと思うようになっていったからだ。守る気持ちは変わらなかったが、それはもう恩返しとしてだけではなくなった。俺は、兄としてお前を守りたいと思ったのだ」
「はい……」
「しかし、同時に俺が一人の男として、お前に惹かれていることも事実だろう。故に、俺の中には迷いが生まれているのだ」

 私に対して、お兄様は迷っているらしい。
 恩人に対する感情、妹に対する感情、思い人に対する感情、それがお兄様の中に、渦巻いているのだろう。

「だからこそ、俺はお前の感情を受け入れることはできない。それが今の俺の結論だ。このまま、お前の思いに応えたところで、俺はお前を幸せにすることはできない」
「そうですか……」

 そして、お兄様が出した結論は、私の思いを受け入れないという選択だった。
 迷っているまま、私の思いを受け入れて、不幸にするくらいなら、断ることを選択する。それが、お兄様の本心なのだ。
 お兄様がそれを明かしてくれたのは、私にとってとてもありがたいことだった。その考えを受けて、私がどうするべきか、結論が出たからだ。
 これも、レティがお兄様に色々と言ってくれたおかげだろう。今度、レティには何かお礼をしなければならない。

「お兄様の気持は、わかりました」
「そうか……」
「つまり、私の思いを受け入れてくれる可能性はあるということですね?」
「む?」

 私がお兄様の答えから導き出したのは、その結論だった。
 お兄様は、私を妹以上に見てくれている。前回は、妹であることを理由に断られたが、それは建前でしかなかった。
 つまり、お兄様が結論を出せれば、私の思いが実る可能性は、充分あるということである。

「お兄様が、そうなってくれるように、私はこれからも頑張りたいと思います」
「何?」
「諦めたりはしません。これから、お兄様が単純に私のことを好きになってくれるように、頑張ります」

 私の言葉に、お兄様は目を丸くしていた。
 しかし、すぐに笑みを見せてくれる。

「ふっ……お前には、敵いそうにないな」
「これは、お兄様もすぐに落ちてしまいそうですね……」

 お兄様とレティは、そんなことを言ってきた。
 私の言葉は、そんなにすごいことだっただろうか。

 何はともあれ、私のこれからの方針は決まった。
 私は新たな思いを胸に、これからも歩んでいくのだ。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

Kuman
2021.06.13 Kuman

46話
部活に行ってしました。になってます( ˙꒳​˙ᐢ

2021.06.13 木山楽斗

ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。

解除
かこ
2020.07.28 かこ

同じ内容ですか?

2020.07.28 木山楽斗

申し訳ありません。
間違えて、同じ話を登録していました。
今後、このようなことがないように気をつけます。

解除
冬陽
2020.07.14 冬陽

二話
生気入学 → 正規入学  かな?

2020.07.14 木山楽斗

ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~

百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!? 男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!? ※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。