上 下
31 / 80

第21話 家族揃って

しおりを挟む
 私とレティは、学園に入学してから、最初の休日を迎えていた。
 今日は、特別な休日だ。なぜなら、この家に、お父様とお母様が来るからである。

 私とお兄様とレティは、外で待っていた。
 お父様とお母様の馬車が近づいてきているからだ。

「来たか……」
「来ましたね……」

 それに対して、お兄様とレティは少し表情を改める。
 二人は、両親に対して、色々と複雑な感情があるのだ。

 私は、優しくなったお父様とお母様しか知らないが、昔は二人とも今とはまったく違う人だったらしい。
 そして、お世辞にも家族間の仲は良くなかったそうだ。それが、私の本当の両親が、お父様を助けたことによって、徐々に改善されて、今のようになったらしい。

「あっ……」

 私がそんなことを考えている内に、馬車が着いていた。
 その戸が開き、中からゆっくりと二人が出てくる。

「ふむ……」

 お父様は、お兄様と非常によく似ていて、とてもかっこいい人だ。
 強く凛々しい面もあるが、本当に優しい人である。

「あら……」

 お母様は、レティとよく似ていて、とても美しい人だ。
 お母様もお父様と同じくとても優しい人だ。それに、明るい人でもある。

 出てきたお父様とお母様と、私達三人が向き合う。
 少しだけ、重い空気が周囲に流れる。

「お久し振りですね、父上、母上」
「ふむ、久しいな、リクルド……」
「久し振りね、リクルド」

 まず言葉を放ったのは、お兄様だ。
 こういう時に、一番に声をあげてくれるのが、お兄様のすごい所である。長男としての役目もあるとは思うが、私ではとても話せそうにない。

 お兄様の言葉に、お父様もお母様も笑顔で応えている。それにより、周囲の空気は柔らかくなっていく。

「ルリアもレティも、元気だったか?」
「はい、お父様……」
「お、お陰様で、元気に過ごせています……」

 お父様は、私とレティにそう語りかけてくれた。
 その笑顔は、とても優しいものだ。昔は、厳しい人だったらしいが、私にはこういう優しいイメージしかない。
 それに対して、レティはまだ少し怖いと思っているようである。本当に少しだけだが、声が震えているのが、その証拠だ。

「二人とも、元気だったなら、幸いだわ」
「はい、ありがとうございます、お母様」
「あ、ありがとうございます……」

 次に声をかけてくれたのは、お母様だ。
 お母様は、言葉と同時に私達に近づいてくる。

「ああ、私の可愛い娘達!」
「あっ! お母様!」
「うわあっ!」

 そして、そのまま私とレティを抱きしめてきた。
 お母様と会う時は、これがいつも基本的な挨拶だ。
 そのため、わかっていたことである。しかし、それでも少し驚いてしまうのが、この大胆な挨拶だ。

 お母様は、昔は暗い雰囲気だったと聞いている。だが、今はとても明るく太陽のような人だ。こちらも、私は明るいイメージしかないので、昔のことが信じられない。

「うん、いつも通りみたいね」
「はい、いつも通り元気です」
「リクルドは、これを許してくれないから、チェックできないけど、元気かしら?」
「……ええ」

 お母様は、この挨拶をお兄様にもしようとしていた。
 しかし、お兄様がそれを拒否したため、実現はしていない。いくらお兄様でも、この挨拶は恥ずかしいのだろう。

「ふむ、君はいいね。そういう挨拶ができて……」
「ふふふ、母親の特権というところかしら」

 ちなみに、お父様もこの挨拶をしたいと思っているらしい。
 私は構わなかったが、レティが拒否したのとお兄様が止めたことによって、それは実現しなかった。
 少し可哀そうだが、お父様も納得していたので、恐らく大丈夫なのだろう。

「あなたは、私で我慢してね」
「そう言われると、そうするしかないね」

 そんなことを考えていると、お母様がお父様に腕を絡めた。
 この二人は、とても仲のいい夫婦だ。ただ、これも昔は違ったらしい。
 昔の二人は、冷めきっていたようだ。今の仲良しな様子からは、とても信じられないことである。

「父上、母上、ここで話すのもなんでしょう。話しは、中に入ってしましょう」
「うむ、それがいいだろうな」

 そこで、お兄様が声をあげた。
 ここでも、まとめてくれるのはお兄様だ。
 確かに、いつまでも外で話すことはない。中で、お茶でも飲みながら話すのが、いいだろう。

 こうして、私達は家の中に入るのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される

朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。 クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。 そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。 父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。 縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。 しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。 実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。 クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。 「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

【完結】貧乏男爵家のガリ勉令嬢が幸せをつかむまでー平凡顔ですが勉強だけは負けませんー

華抹茶
恋愛
家は貧乏な男爵家の長女、ベティーナ・アルタマンは可愛い弟の学費を捻出するために良いところへ就職しなければならない。そのためには学院をいい成績で卒業することが必須なため、がむしゃらに勉強へ打ち込んできた。 学院始まって最初の試験で1位を取ったことで、入学試験1位、今回の試験で2位へ落ちたコンラート・ブランディスと関わるようになる。容姿端麗、頭脳明晰、家は上級貴族の侯爵家。ご令嬢がこぞって結婚したい大人気のモテ男。そんな人からライバル宣言されてしまって―― ライバルから恋心を抱いていく2人のお話です。12話で完結。(12月31日に完結します) ※以前投稿した、長文短編を加筆修正し分割した物になります。 ※R5.2月 コンラート視点の話を追加しました。(全5話)

婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。 ※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。  お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。

私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木あかり
恋愛
 「あなた達の絶望を侯爵様に捧げる契約なの。だから……悪く思わないでね?」   貧乏な子爵家に生まれたカレン・リドリーは、家族から虐げられ、使用人のように働かされていた。   カレンはリドリー家から脱出して平民として生きるため、就職先を探し始めるが、令嬢である彼女の就職活動は難航してしまう。   ある時、不思議な少年ティルからモルザン侯爵家で働くようにスカウトされ、モルザン家に連れていかれるが……  「変わった人間だな。悪魔を前にして驚きもしないとは」   クラウス・モルザンは「悪魔の侯爵」と呼ばれていたが、本当に悪魔だったのだ。   負の感情を糧として生きているクラウスは、社交界での負の感情を摂取するために優秀な侯爵を演じていた。   カレンと契約結婚することになったクラウスは、彼女の家族に目をつける。   そしてクラウスはカレンの家族を絶望させて糧とするため、動き出すのだった。  「お前を虐げていた者たちに絶望を」  ※念のためのR-15です  ※他サイトでも掲載中

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

処理中です...