上 下
30 / 80

第20話 称賛に値すること

しおりを挟む
 私とレティは、学園から家へと帰って来ていた。
 今は、あることのために、レティの部屋に集まっている。

「はあ、今日はなんなんでしょうか……?」
「わからないけど……特に、悪いことはしていないはずだよね?」
「そうだと思うんですけど……」

 私達は、今日もお兄様に呼び出されていた。
 まだ呼び出しの時間まで少しあるので、レティと作戦会議をしているのだ。
 今日は、特に悪いことはしていないはずなのだが、一体、お兄様はどうして呼び出しているのだろうか。

「なんだか、ほぼ毎回呼び出されている気がしますね……」
「うん……」

 なんだか、私達はお兄様によく呼びだされている。
 その度に、何があったのかと緊張してしまう。お兄様は、理由もなく呼びださないので、そう感じてしまうのだ。

「まあ、行くしかないんですけど……」
「それは、そうだね」

 お兄様からの呼び出しを断るという選択肢は、私達の中にはない。
 お兄様は、私達の敬愛するお兄様であり、ここでは私達の保護者であるも同然だ。そんな人の呼び出しを、断れるはずはないのである。

 こうして、私とレティは、お兄様の元へと向かうのだった。



◇◇◇



 私とレティは、お兄様の元に来ていた。

「お兄様、今日はどのようなご用件でしょうか……?」
「ああ……」

 私の質問に、お兄様は口の端を少し歪める。
 その様子は、怒っているようには見えない。恐らく、今日は怒られるようなことではないのだろう。

「実は、礼節の教員から、話を聞いたのだ」
「礼節の先生からですか……?」
「ああ……」

 どうやら、お兄様は礼節の先生から、何かを言われたらしい。
 礼節の先生は、私達のことを褒めてくれていた。そのため、お兄様に伝わったのも、いい結果であるはずだ。

「お前達の礼節は完璧だと言われた。どうやら、礼節の授業で、いい結果を残したらしいな……」
「は、はい……」

 そこで、お兄様は笑った。
 その笑みは、嬉しそうな笑みである。
 つまり、お兄様は私達の評価を喜んでくれているのだ。そのことに、私まで嬉しくなってしまう。

「お前達を褒めたのは、一流の教員だ。その者が、完璧だと評した。その事実は、この俺も賞賛しなければならないだろう。よくやった、二人とも」
「お兄様……ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」

 お兄様から、賞賛の言葉を頂いた。
 これは、私達にとって、とても光栄なことだ。
 そのことに、私の心は穏やかではない。こんなに嬉しいことは、中々ないだろう。

「これも、お兄様の教育のおかげです」
「俺は指導をしただけにすぎない。それをものにしたのは、お前達の努力だ。故に、俺のおかげなどという必要はない。これは、お前達自身の成果だ」
「ありがとうございます、お兄様……」

 私の言葉にも、お兄様は嬉しい言葉で返してくれる。
 これは、私自身の成果。そう言ってもらえるのは、本当にありがたい。

「この俺としたことが、思わずお前達を呼び出してしまった。それ程までに、俺はこの結果を喜んでいるということだ」
「お兄様……」
「だが、この結果に油断するな。これからも、このような結果を出せるように、日々精進しろ」
「はい……」
「は、はい……」

 しかし、それだけでは終わらないのがお兄様だ。
 褒められたのは、今日の一回だけ。これからも、評価されるように、精進することが大事なのだ。

「さて、今日はもう一つ話がある」
「はい。どのような用件ですか?」

 そこで、お兄様がそんなことを言ってきた。
 どうやら、今日呼び出されたのは、このことだけではないようだ。
 これは、再度気を引き締めなければならない。一体、どのような用件だろうか。

「もうすぐ、お前達にも休日が訪れるだろう。それに合わせて、父上と母上が来るらしい」
「え!? お父様とお母様が!?」
「ええっ!? ほ、本当ですか?」
「ああ、丁度予定が空いたようだ」

 次の用件は、お父様とお母様の来訪だった。
 二人とも忙しく、中々予定がとれないが、私達の休日に合わせて、ここに来るらしい。これは、一大事だ。

「入学式に来られなかったことを、かなり気にしているようでな。俺から色々と言ってあるが、お前達からもフォローしてやってくれ」
「あ、はい……」
「ああ、そういえば、そうでしたね」

 お父様とお母様は、仕事の都合上、私達の入学式に来られなかった。
 そのことを、かなり気にしており、すごく悲しんでいるらしい。
 私とレティに、わざわざ謝罪の手紙まで送ってきたため、その気持ちは相当なものだろう。そのことは、きちんとフォローしておかなければならない。

 こうして、私達は、お父様とお母様を迎えることになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。 全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。 言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。 食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。 アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。 その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。 幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

処理中です...