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第18話 暴走する疑念

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 私とレティは、家に帰って来ていた。
 男子生徒の告白については、丁重にお断りした。向こうも、断られることはなんとなく予想していたらしく、特に話が拗れることもなく、話は終わった。

 ただ、問題はここからだ。
 家に帰って来てから、私とレティはお兄様に呼び出されていた。
 その呼び出しがあった瞬間から、私達の脳裏にあることが過っていた。もしかしたら、お兄様は告白のことを知っているのではないかと。

「お、お兄様、本日の用件は……?」
「ふんふん」

 私とレティは、緊張しながら、お兄様の前に立っていた。
 まさか、あのことを知っているとは思えないが、どうなのだろうか。

「お前達が、俺に秘密にしていることがあると思ってな……」

 これは、駄目かもしれない。
 私達がお兄様に隠していることとは、今日の告白のことだろう。男子生徒の安全のために、お兄様に隠すことに決めたのだ。

「さて、どうだ?」
「え、えっと……」
「この俺は、既に真実を知っている。故に、隠すなど無意味であるということを、お前達も理解しているはずだ」

 悩んでいる私に、お兄様はそう言ってきた。
 確かに、お兄様が知っているなら、隠しても無駄だろう。ここは、素直に話した方が、いいのかもしれない。
 お兄様は、怒っている訳でもではなさそうだ。そのため、そもそも処罰を下すというのが、私達の勘違いだったのかもしれない。

「先日お話した男子生徒に、告白されました。丁重に断ると、向こうも引いてくれたので、特に問題は起こっていません」
「ほう……」

 私の言葉に、お兄様はゆっくりと頷く。
 やはり、お兄様は怒っていないようだ。きっと、念のため、私達に話を聞いただけなのだろう。

「……それで、そいつの名前はなんという?」

 そう思った私だったが、お兄様は即座に表情を変えた。
 その表情は、先程までの優しい顔とは打って変わり、怒りに満ちている。

「お、お兄様、どうしたのですか?」
「別にどうということはない。俺は、その者の名前を聞いているのだ」

 私の質問に、お兄様はそう答えてきた。
 ここで、名前を言ってしまうと駄目だろう。恐らく、お兄様は何か処罰を下す。そんな可哀そうなことは、絶対に避けなければならない。

「その男子生徒の名前を言うと、お兄様は何かしらの処罰を下すのでしょうか?」
「処罰を下すかどうかは、検討中だ」
「検討中という時点で、私はお話しできません。私に告白しただけで、処罰を下す可能性があるなど、おかしな話です」

 やはり、お兄様は処罰を下すようだ。
 それは、流石に避けたいため、男子生徒の名前は絶対に話す訳にはいかない。

「そもそも、どうしてお兄様が、知っているんですか? お姉様は、私にしか話していませんし、私も誰にも言っていません。もしかして、ストーカーですか? 気持ち悪いですよ?」

 ここで、レティの援護射撃が入る。
 少々言葉は厳しいが、それは私も気になっていたところだ。
 お兄様は、一体どうやってこの事実を知ったのだろう。

「単純な話だ。帰ってきた後、お前達の様子がいつもと違った。故に、かまをかけたというだけだ」
「な、なるほど……」

 お兄様は、私達の様子が違うというだけで、隠し事をしていると見抜いたようだ。
 その洞察力は、流石というしかない。
 見事に引っかかり、話してしまった私は、とても愚かだった。言わなければ、お兄様がこのようになるはずもなかったのだ。

「……それで、名前はなんという?」
「お、お兄様、恐らく心配はありません。あの人は、フォリシス家の令嬢を狙っているという訳ではないと思います」
「ほう?」
「なぜなら、彼は平民です。貴族ならともかく、平民の人が私を狙っているとはいえないのではないでしょうか?」

 再度始まった追及に、私はそう答えた。
 お兄様が、ここまで心配しているのは、フォリシス家を狙うよからぬ者達に警戒しているからだ。
 ただ、平民ならその心配を取り払えるだろう。貴族でなければ、フォリシス家を狙うなどという発想そのものが出てこないはずである。

「ルリア、忘れたのか? 俺は、平民や貴族といった地位で、相手を差別しない。故に、地位など関係はない」
「お、お兄様……?」
「俺は、誇り高きフォリシス家の長男として、妹に手を出そうとする不届き者を逃がしはしない」

 確かに、お兄様は、地位によって差別をする人ではない。自身の学園に、多くの平民を通わせていることも、その証拠だ。
 それは、素晴らしいことだが、今回は少々マイナスに働いてしまったらしい。

「お、お許しください、お兄様。処罰など、あんまりです……」
「む……?」

 いよいよ説得が難しくなった私は、ついに懇願していた。
 何を言っても、お兄様は聞き入れてくれそうにない。そのため、もうこれくらいしか、私にできることはないのである。

「……まあいい」
「え?」

 私がそんなことを思っていると、お兄様がそう言ってきた。
 その言葉に、私は思わず驚いてしまう。

「これの俺としたことが、問題をはき違えていたようだ。少なくとも、お前達を追い詰め、そのような表情をさせるのが、正しいとは言えまい」
「あっ……」
「すまなかったな……」

 お兄様は立ち上がり、私の目に浮かんでいた涙を拭ってくれる。
 どうやら、いつの間にか私は涙を浮かべていたようだ。そのことに、私は恥ずかしくなってしまう。

「話はこれで終わりだ。お前に告白した生徒については、これ以上追求しない。それで、いいと判断しよう」
「は、はい……」

 こうして、私達とお兄様との話は終わるのだった。
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