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第15話 謎の尋問
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私は、授業初日を終えて、家に帰って来ていた。
しばらく部屋で、一人の時間を過ごしていた私だったが、お兄様から呼び出された。という訳で、私はお兄様の元に来ている。
今日は、一体どういう用件だろう。確か、先程レティが呼び出されていたはずだが、それに関係することだろうか。
「お兄様、今日はどのような用件でしょうか?」
「ふっ……聡明な我が妹なら、ここに何故呼びだされたかなど、わかっていることだろう?」
「え?」
そう思って質問した私に、お兄様はそんなことを言ってきた。
これには、私も困ってしまう。正直言って、何もわかっていない。
強いて挙げるとしたら、授業中にお兄様が通った時に、そちらを見てしまったことだろうか。
「申し訳ありません、お兄様。私には、わかりません。もしかして、授業中にお兄様の方を見てしまったことでしょうか……」
仕方ないので、私は素直に話すことにした。
隠していても、いいことはない。もし、これでお兄様に失望されてしまっても、それは私の落ち度だ。
「……その程度のことで、俺は呼びだしたりしない。俺が呼び出したのは、もっと重要なことだ」
「じゅ、重要なこと……」
そこまで言われても、私にはわからない。
一体、お兄様は何を言っているのだろう。
「ルリア、お前は今日、男子生徒と話したらしいな」
「え? 男子生徒と……?」
お兄様の言葉に、私は驚いた。
確かに、私は今日男子生徒と話した。ただし、ペンを拾って、一言を交わしただけだ。
恐らく、お兄様は、私に近づく不定な者達に警戒しているのだろう。だが、今日あったことは何も問題はないはずだ。
「お兄様、確かに男子生徒と言葉を交わしました。ただ、一言だけです。ペンを拾ったので、返してあげただけです」
「ほう……?」
私は、お兄様に事情を説明した。
しかし、お兄様の顔は晴れていない。やはり、フォリシス家の令嬢に近づく男子生徒には、細心の注意を払っているのだろう。
「どのように返した?」
「はい?」
「何を言って、どういう風にペンを返した?」
お兄様は、さらに質問を重ねてきた。
念のため、詳細を説明して欲しいということだろうか。それなら、説明しよう。それで、きっと誤解は解けるはずだ。
「転がってきたペンを拾ったら、男子生徒が頭を下げてきたため、安心するように笑顔で、大丈夫だと言ってペンを返しました」
「なるほど……それなら、今ここで再現してみせろ。このペンを、同じように俺に返してみろ」
「え? 再現……?」
お兄様は、相当用心深いらしい。
まさか、あの時のことを再現することになるとは思っていなかった。
私は、記憶を辿って、どのように返したかを思い出す。
「大丈夫ですよ、どうぞ」
私は、あの時の言葉をあの時の笑顔で放った。
すると、お兄様の表情が少し変わる。
「そのような表情で、ペンを返したというのか?」
「え? あ、はい……怯えているようだったので、安心させたいと思って……」
お兄様は、少し怒っているように見えた。
私の笑顔は、何かまずいものだったのだろうか。
「ルリア、不安そうな顔をするな。俺は怒っている訳ではない」
「は、はい……」
不安そうな私を心配して、お兄様はそう声をかけてくれた。
どうやら、怒っている訳ではなかったようだ。
その言葉に、私は安心する。お兄様に、笑顔を向けられなくなってしまうのは、とても困ってしまうので、本当によかった。
「お前の笑顔は、時に人の心を揺さぶる時がある。そのような笑顔を見せれば、在らぬ勘違いをする可能性もあるかもしれないのだ」
「在らぬ勘違い……ですか?」
「そうだ。特に、思春期の男子には、そういうことも多い。それは、いずれ問題の種になってしまう。故に、笑顔も使い分けなければならない」
「は、はい……」
お兄様の言っていることが、私にはなんとなくわかった。
恐らく、笑顔を向けたことで、男子生徒が私に好意を抱いてしまうことを危惧しているのだ。そんなことはなかったはずだが、お兄様はそう思ったのだろう。
もしかして、それだけ私の笑顔が素敵に見えたということだろうか。それなら、少し嬉しい。
「わかったならいいのだ。それで、その男子生徒の名前を教えてもらおうか」
「……はい?」
そこで、お兄様は変なことを言ってきた。
男子生徒の名前など、どうして聞いてくるのだろう。
もしかして、お兄様は勘違いから、男子生徒を処罰しようとしているのかもしれない。フォリシス家の令嬢という立場は、そうさせるのに充分な理由がある。
しかし、それはあまりにも可哀そうだ。彼は、ペンを落としただけで、何も悪いことをしていない。ここは、名前を言うべきではないだろう。
「お兄様、その男子生徒に何かするつもりなのですか?」
「名前を聞くだけだ。何もしたりはしない」
「名前を聞く必要など、ないと思います。何か必要があるのでしょうか?」
「それは……」
私の質問に、お兄様が詰まった。
聡明なお兄様が、こんな簡単な質問で、言葉に詰まるはずなどあり得ない。それが、お兄様が男子生徒に、言えないようなことをする証拠だ。
「……この俺を怯ませるとは、お前も成長したようだな」
「い、いえ……」
お兄様が、自嘲気味に笑みを浮かべる。
どうやら、男子生徒の名前は、言わないで済みそうだ。
こうして、私とお兄様の話し合いは終わるのだった。
しばらく部屋で、一人の時間を過ごしていた私だったが、お兄様から呼び出された。という訳で、私はお兄様の元に来ている。
今日は、一体どういう用件だろう。確か、先程レティが呼び出されていたはずだが、それに関係することだろうか。
「お兄様、今日はどのような用件でしょうか?」
「ふっ……聡明な我が妹なら、ここに何故呼びだされたかなど、わかっていることだろう?」
「え?」
そう思って質問した私に、お兄様はそんなことを言ってきた。
これには、私も困ってしまう。正直言って、何もわかっていない。
強いて挙げるとしたら、授業中にお兄様が通った時に、そちらを見てしまったことだろうか。
「申し訳ありません、お兄様。私には、わかりません。もしかして、授業中にお兄様の方を見てしまったことでしょうか……」
仕方ないので、私は素直に話すことにした。
隠していても、いいことはない。もし、これでお兄様に失望されてしまっても、それは私の落ち度だ。
「……その程度のことで、俺は呼びだしたりしない。俺が呼び出したのは、もっと重要なことだ」
「じゅ、重要なこと……」
そこまで言われても、私にはわからない。
一体、お兄様は何を言っているのだろう。
「ルリア、お前は今日、男子生徒と話したらしいな」
「え? 男子生徒と……?」
お兄様の言葉に、私は驚いた。
確かに、私は今日男子生徒と話した。ただし、ペンを拾って、一言を交わしただけだ。
恐らく、お兄様は、私に近づく不定な者達に警戒しているのだろう。だが、今日あったことは何も問題はないはずだ。
「お兄様、確かに男子生徒と言葉を交わしました。ただ、一言だけです。ペンを拾ったので、返してあげただけです」
「ほう……?」
私は、お兄様に事情を説明した。
しかし、お兄様の顔は晴れていない。やはり、フォリシス家の令嬢に近づく男子生徒には、細心の注意を払っているのだろう。
「どのように返した?」
「はい?」
「何を言って、どういう風にペンを返した?」
お兄様は、さらに質問を重ねてきた。
念のため、詳細を説明して欲しいということだろうか。それなら、説明しよう。それで、きっと誤解は解けるはずだ。
「転がってきたペンを拾ったら、男子生徒が頭を下げてきたため、安心するように笑顔で、大丈夫だと言ってペンを返しました」
「なるほど……それなら、今ここで再現してみせろ。このペンを、同じように俺に返してみろ」
「え? 再現……?」
お兄様は、相当用心深いらしい。
まさか、あの時のことを再現することになるとは思っていなかった。
私は、記憶を辿って、どのように返したかを思い出す。
「大丈夫ですよ、どうぞ」
私は、あの時の言葉をあの時の笑顔で放った。
すると、お兄様の表情が少し変わる。
「そのような表情で、ペンを返したというのか?」
「え? あ、はい……怯えているようだったので、安心させたいと思って……」
お兄様は、少し怒っているように見えた。
私の笑顔は、何かまずいものだったのだろうか。
「ルリア、不安そうな顔をするな。俺は怒っている訳ではない」
「は、はい……」
不安そうな私を心配して、お兄様はそう声をかけてくれた。
どうやら、怒っている訳ではなかったようだ。
その言葉に、私は安心する。お兄様に、笑顔を向けられなくなってしまうのは、とても困ってしまうので、本当によかった。
「お前の笑顔は、時に人の心を揺さぶる時がある。そのような笑顔を見せれば、在らぬ勘違いをする可能性もあるかもしれないのだ」
「在らぬ勘違い……ですか?」
「そうだ。特に、思春期の男子には、そういうことも多い。それは、いずれ問題の種になってしまう。故に、笑顔も使い分けなければならない」
「は、はい……」
お兄様の言っていることが、私にはなんとなくわかった。
恐らく、笑顔を向けたことで、男子生徒が私に好意を抱いてしまうことを危惧しているのだ。そんなことはなかったはずだが、お兄様はそう思ったのだろう。
もしかして、それだけ私の笑顔が素敵に見えたということだろうか。それなら、少し嬉しい。
「わかったならいいのだ。それで、その男子生徒の名前を教えてもらおうか」
「……はい?」
そこで、お兄様は変なことを言ってきた。
男子生徒の名前など、どうして聞いてくるのだろう。
もしかして、お兄様は勘違いから、男子生徒を処罰しようとしているのかもしれない。フォリシス家の令嬢という立場は、そうさせるのに充分な理由がある。
しかし、それはあまりにも可哀そうだ。彼は、ペンを落としただけで、何も悪いことをしていない。ここは、名前を言うべきではないだろう。
「お兄様、その男子生徒に何かするつもりなのですか?」
「名前を聞くだけだ。何もしたりはしない」
「名前を聞く必要など、ないと思います。何か必要があるのでしょうか?」
「それは……」
私の質問に、お兄様が詰まった。
聡明なお兄様が、こんな簡単な質問で、言葉に詰まるはずなどあり得ない。それが、お兄様が男子生徒に、言えないようなことをする証拠だ。
「……この俺を怯ませるとは、お前も成長したようだな」
「い、いえ……」
お兄様が、自嘲気味に笑みを浮かべる。
どうやら、男子生徒の名前は、言わないで済みそうだ。
こうして、私とお兄様の話し合いは終わるのだった。
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