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4.わがままな聖女(モブ視点)
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聖女補佐であるアノリアは辟易としていた。
罪人として追放されたセレティナに代わって、聖女になったティルリアは、とてもわがままな伯爵令嬢だったのだ。
彼女は聖女としての仕事はせず、アノリアに任せきっている。そもそもの話、彼女には聖女が務まる程の魔法の才能がないのだ。
ただアノリアも、それだけで辟易とすることなどはなかっただろう。
例え仕事を任せきりでも、感謝と努力を怠らなければ、アノリアはそれでも構わないと思っていた。
しかしティルリアは、感謝所から罵倒してきた。
アノリアの仕事が拙いだとか遅いだとか、顔を合わせる度に言ってきたのである。
さらにティルリアは、アノリアのことを召使いのように扱っていた。
彼女は聖女補佐や聖女の仕事とは関係なく、ティルリアにこき使われているのだ。
そんなティルリアに対して、アノリアも抗議したい所だった。相手が伯爵令嬢ではあるものの、同じくエペアー伯爵家の令嬢であるアノテラなら、その権力に対抗できない訳でもない。
だが、ティルリアは王太子であるダルキスと婚約している。それによって彼女の立場は盤石だ。誰も逆らうことが、できないのである。
「とんだ貧乏くじね……そもそも、どうしてセレティナ様が追放されなければならなかったのかしら? あの二人のせいで、全てがくだくだよ。ヴェルゼス様もいなくなってしまったし……」
「アノリア様、気持ちは理解できます。でも、押さえてください。ここでは、誰が聞いているかわからないんですから」
「この店のお客さん達なら大丈夫よ。あなたはいつまで経っても小心者ね」
「ちょっと飲み過ぎじゃありませんか?」
アノリアは、同じ王城で働く騎士であるギークスと酒場に来ていた。
そこで愚痴を、割と大きな声を出していたのである。
ギークスにとって、それはとても心配なことだったのだろう。王族に対する批判など問題だ。特にダルキスは、気性が荒い所もある。
「アノリア様の言う通りだよなぁ。セレティナ様は、素敵な聖女様だった。俺達にも手を差し伸べてくれたしなぁ……」
「平民出身っていうのも、俺達からしたら心強いものだった。アノリア様みたいな人もいるけど、貴族というのは、どうにも俺達を軽視する所がある」
「ダルキス殿下が、このまま国王だなんて考えたくもないことだな。この状況を見れば、ドルダン様も考えを改めてくれただろうに……」
アノリアが言っていた通り、店の客達は彼女の言葉に続き始めた。
ここには、ダルキス殿下の味方をする者などいない。そのことに安心したのか、ギークスはゆっくりとため息をついた。
「本当に……これからどうなるんでしょうかね?」
「……少なくとも、私はもう補佐なんて続けたくはないわ。実家に戻って、花嫁修業でもした方がマシだわ」
「え? 帰っちゃうんですか?」
「ええ、そうしようか本気で悩んでいるわ」
罪人として追放されたセレティナに代わって、聖女になったティルリアは、とてもわがままな伯爵令嬢だったのだ。
彼女は聖女としての仕事はせず、アノリアに任せきっている。そもそもの話、彼女には聖女が務まる程の魔法の才能がないのだ。
ただアノリアも、それだけで辟易とすることなどはなかっただろう。
例え仕事を任せきりでも、感謝と努力を怠らなければ、アノリアはそれでも構わないと思っていた。
しかしティルリアは、感謝所から罵倒してきた。
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さらにティルリアは、アノリアのことを召使いのように扱っていた。
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そんなティルリアに対して、アノリアも抗議したい所だった。相手が伯爵令嬢ではあるものの、同じくエペアー伯爵家の令嬢であるアノテラなら、その権力に対抗できない訳でもない。
だが、ティルリアは王太子であるダルキスと婚約している。それによって彼女の立場は盤石だ。誰も逆らうことが、できないのである。
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「この店のお客さん達なら大丈夫よ。あなたはいつまで経っても小心者ね」
「ちょっと飲み過ぎじゃありませんか?」
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ギークスにとって、それはとても心配なことだったのだろう。王族に対する批判など問題だ。特にダルキスは、気性が荒い所もある。
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「本当に……これからどうなるんでしょうかね?」
「……少なくとも、私はもう補佐なんて続けたくはないわ。実家に戻って、花嫁修業でもした方がマシだわ」
「え? 帰っちゃうんですか?」
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