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18.同じ気持ちで

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 バルドリュー伯爵家に来てから、数年後私の立場は大きく変わっていた。
 ここに来た時は、ただのメイドであった訳なのだが、今の私はこの伯爵家の令息の夫人である。私は、ヴィクトールと結婚したのだ。

「最初にこちらに来た時は、このようなことになるとは思っていませんでしたけど……」
「そうですね……よく、エルヴェルト公爵が許してくれたものだと今でも思います」
「ふふ、まあ、私は事情が事情ですからね」

 ヴィクトールとの結婚を、お父様は快諾してくれた。
 恐らく、私は政略結婚などには適さないと判断されたのだろう。事情を知っている元に、嫁いでくれた方がいいと、父は思ったのかもしれない。

「なんとなくそうなのだろうと思っていましたけれど、皆さん特に驚きませんでしたね」
「まあ、事情は伏せていましたが、流石に長く働いていると私に何かしらの事情があることはわかるでしょうからね……」

 バルドリュー伯爵家の使用人達は、私の事情をなんとなく察していたらしい。
 まあ、私を突き落としたことによってフェリーナ一派が普通以上に罰を受けていることなどから、推測することはできたのだろう。
 しかしそれでも、使用人達は私をきちんと一メイドとして扱ってくれていた。ややこしい存在である私をそのように受け入れてくれた皆には、感謝の気持ちしかない。

「ふふ、でも気心が知れている人達とこれからも一緒にいられるというのは嬉しいものですね」
「おや、そういうものですか?」
「ええ、まあ立場は変わってしまう訳ですが、私にとって皆さんは良き同僚や上司……お友達でしたからね」

 これからもバルドリュー伯爵家で過ごせるということは、私にとって嬉しいことだった。
 ともに仕事をしていたため、ここの使用人達のことはよく知っている。立場が変わっても、そんな人達に囲まれて過ごせるというのは喜ばしいことである。
 フェリーナが去ってからは、特に不和も起こっていないし、きっとこれから先もこの屋敷では楽しい生活が待っているだろう。私はそんなことを思っていた。

「……しかし、もう一人のラメリアさんはどうなったのでしょうかね? 最近は、出て来なくなったのでしょう?」
「ええ、そうですね……消えてしまったのか、それともまだ残っているのか。それは正直な所、私にもわかりません」

 ヴィクトールの言葉に、私は自分の中にあるもう一人の存在を思い出していた。
 私の心は、もしかしたらもう一つになったのかもしれない。ここで穏やかな生活を暮らしている内に、克服できたという可能性はある。
 ただ、実際の所はわからない。ふとしたことがきっかけで、また出てくる可能性もあるだろう。

「でも、もう一人の私も私な訳ですからね。彼女のことを受け入れて、私は進んでいきたいと思っています」
「ええ、それは僕も同じ気持ちです」

 ヴィクトールはそう言って、私に手を差し出してきた。
 私は、その手をゆっくりと取る。その大きな手には、確かな思いやりがあった。
 こうして私は、ヴィクトールの妻として新たな人生を歩んでいくのだった。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

玄未マオ
2023.09.15 玄未マオ

突き落としの主犯である子爵令嬢もさることながら、怖いから付き従っていたモブたちもたいがいですね。
捕まった後で、やりたくなかったなんて文句言うなんて。

木山楽斗
2023.09.16 木山楽斗

感想ありがとうございます。
仰る通り、全員まともではないと思います。

解除
メカ音痴
2023.09.07 メカ音痴

階段から突き落とす。打ちどころが悪ければ人は死にます。伯爵家で人が死ねば揉み消すなんて無理でしょう。子爵令嬢は余程のバカだったんですね。牢獄につかまってますが、主人公は公爵令嬢ですし知らなかったは通じない言い訳。公爵家は王家に繋がる血筋ですし、身勝手な悪意からくる重罪だからもう二度と日の目は見れなさそう。処刑だと言われても反論できないですよね。下手したら実家の子爵家へも飛び火してるのでは。あそこの娘は〜て。貴族って情報社会。娘を庇えば家ごと総スカン、すでに公爵家に睨まれると周りの貴族は子爵家と関係を自主的に切っていくのではないでしょうか。

木山楽斗
2023.09.08 木山楽斗

感想ありがとうございます。
仰る通り、子爵令嬢は余程の馬鹿だったと思います。
そもそも揉み消すなんて無理だったでしょうし、彼女は最悪極刑に処されるでしょう。
実家の子爵家も、彼女によって著しく評価が下がると思います。
こちらも最悪の場合は、没落するでしょう。

解除
Vitch
2023.09.07 Vitch

一万歩譲ってラナリアが平民の田舎娘だったとしてもさ、
なんてたかが子爵令嬢が伯爵家で起こしたことを揉み消せると?

木山楽斗
2023.09.07 木山楽斗

感想ありがとうございます。
彼女は本気で揉み消せると考えていたと思います。

解除

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