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12.念のために

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「なるほど、そのようなことがあったのですか……」
「ええ……」

 仕事が終わってから、私はヴィクトールにことの全てを打ち明けていた。
 ソルネアには少し悪いと思うが、これも彼女のためだ。万が一の時のためにも、ヴィクトールには事情を説明しておいた方がいいはずである。

「ソルネアさんとしては、メイド同士の問題はメイド同士で解決したいということですか……」
「まあ、そういうことになるでしょうかね……とにかく彼女は、ヴィクトール様達の介入は望んでいないと思います」
「わかりました。それなら、少し様子を見ることにしましょうか。ただ、僕は何かあったらすぐに介入しますよ? フェリーナさん達の好き勝手にさせたくは、ありませんからね……」
「ええ、そうしていただけると助かります」

 もちろん、ソルネアがその持ち前の強さでフェリーナを退ける可能性はあるだろう。
 しかし、その前にフェリーナが何かとんでもないことをするかもしれない。そういう時のために、私はヴィクトールに相談しに来たのである。
 彼という保険があれば、きっと大丈夫だろう。何かあったら、すぐに動いてくれるはずだ。

「しかしそれを言うならそもそもの話、ラナリアさんが動いてもいいのではありませんか?」
「え? 私が?」
「ええ、ラナリアさん……というかラメリア嬢の力なら、フェルーナさんなんて容易に抑えつけられるでしょう?」
「ああ、そういうことでしたか……まあ、確かにそうなのですけれどね」

 ヴィクトールの指摘に、私は少し驚くことになった。
 私が公爵令嬢として動く。それは考えていないことだった。
 確かに客観的に見れば、その方が良いと思えるかもしれない。ただ、私はできる限りその手段を取りたくはなかった。ここでの私は、一メイドであるべきだと思っているのだ。

「それは、本当に最後の手段ということにしようと思っています。私の素性は、できるだけ明かしたくありませんからね」
「ああ、そうでしたね。すみません、愚かなことを聞いてしまいましたね……あなたは、そういう立場でしたね」
「いえいえ、仕方ありませんよ。私はややこしい立場ですからね……」

 ヴィクトールの言葉に、私は思わず笑ってしまった。
 本当に、私はややこしい立場だ。きっとヴィクトールにとっては、私は非常に扱いにくい存在であるだろう。
 そう考えると、バルドリュー伯爵家の面々は寛大だ。こんな私を雇って良くしてくれているなんて、皆人がいいとしか言いようがない。
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