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10.悪魔のように(モブ視点)

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 子爵令嬢であるフェリーナは、平民のメイドであるラナリアが自分に逆らったことにひどく苛立っていた。
 平民は、貴族の奴隷のようなもの。差別意識が強い彼女はそのように考えている。
 そんな彼女にとって、平民に逆らわれるというのは飼い犬に手を噛まれるようなものだった。

「屈辱的な……なんて屈辱的なことなのかしら? あんな田舎の平民風情が、この高貴な私にあんなことをするなんて!」

 取り巻き達は、憤るフェリーナの周りで怯えていた。
 彼女達も、別にフェリーナの人間性を慕っているという訳ではない。貴族とはいえ、自分達にも牙を向ける可能性のあるフェリーナの標的にならないように、彼女についているだけだ。
 故に目の前で怒りをあらわにするフェリーナが、取り巻き達は怖かった。落ち着くまでやり過ごす。彼女達の頭の中には、そんな考えしかなかった。

「ラナリアにも腹が立つけれど、ソルネアも気に入らないわ。あの二人は、完膚なきまでに叩き潰さないと気が済まない。私に逆らったことを後悔させてやるんだから……」
「フェリーナ様、どうされるおつもりなんですか?」

 取り巻きの一人は、フェリーナに対して恐る恐る質問した。
 その質問に対して、彼女は笑みを浮かべる。その笑みは、なんとも邪悪な笑みだ。

「方法は、色々とあるわよ。でもそうね。古典的なことではあるけれど、彼女達の持ち物を隠すだとか、剃刀や画鋲を仕込んでおくとか、そういうのがいいかしら」
「も、持ち物を隠すのはまだしも、剃刀や画鋲はまずいのではありませんか? じ、実害が出たら厄介なことになったり……」
「問題ないわ。何かあっても、揉み消せばいいだけだもの。私を誰だと思っているの? 偉大なるアナキシス子爵の令嬢なのよ!」

 取り乱す取り巻き達に対して、フェリーナは高々とそう宣言した。
 彼女は、自らの地位を振りかざしてその行為を正当化する。何も関係がないラナリアやソルネアを、自分に逆らう愚かな飼い犬として罰するつもりなのだ。

「田舎者のメイド二人くらい、どうにだってできるのよ。ここで徹底的に追い詰めて、やめたとしても地の果てまで追ってあげようかしら? 私をコケにした罰よ。苦しませて苦しませて、全部奪い取ってやるんだから……」

 フェリーナの本性に、取り巻き達は震えていた。
 目の前にいる女性が悪魔に見えて、彼女達は益々逆らうべきではないと理解する。
 その被害を受けるラナリアやソルネアに同情する気持ちは少しあった。だが、それでも彼女達は自らの安全のためにフェリーナに付き従うことを選んだのである。
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