上 下
8 / 16

8.偉大なる師には

しおりを挟む
 石化を解く薬について記されている文献は、いくつかあった。
 私はそれらの文献の情報をまとめて、薬の材料と調合方法を割り出した。
 その材料と方法は、私が考えていたものとは少し違う。知識はあったが、祖母も実際に調合したことはなかったらしいし、正確な情報という訳でもなかったようだ。

「調べてみて良かったと心から思います。祖母から教えてもらった材料と方法でやっていたら、まったく違う薬ができていたかもしれません」
「そういうものなのか?」
「ええ、材料を調合する量によって左右されることもありますし……」
「なるほど……」

 材料と調合方法がわかったら、後は調合するだけである。
 という訳で、私は薬の調合の準備を進めていた。
 当然のことながら、ガルトリア王国の王城には調合をするための設備なんてない。そのため今は、王城にいる人達に色々と持って来てもらっている。

「あなたは、優れた薬師であるようだな……」
「え?」
「分析力があり、それでいて冷静だ。その年で既に職人の域に達している。俺はあなたのことを尊敬する」
「……ありがとうございます。でも、私はなんてまだまだですよ」

 ギルーゼ殿下は、私のことを賞賛してくれた。
 それ自体は、嬉しく思う。ただ、それ程までに褒められる価値が自分にあるかというと、それは微妙な所だ。

「謙遜する必要などないのだぞ?」
「いいえ、本当です。私は、目標である祖母に並べていませんから」
「祖母?」
「私の薬師の師匠です。一昨年亡くなりました。私はその祖母から、薬師のいろはを教わりました。私がいつも、規範としている存在です」
「そうか……それなら、そうなのかもしれないな」

 私の言葉に、ギルーゼ殿下はすぐに納得してくれた。
 私はまだ、師匠を超えられていない。そんな私は、まだギルーゼ殿下の賞賛を受けるべきではない。少なくとも、今回の件を解決できるまでは。

「祖母はいつもは優しい人でしたが、薬師として教える時はとても厳しい人でした。それは薬師が調合に失敗するということは、生死に関わることだからです」
「生死か……確かに、薬とは時に毒にもなると聞いている」
「ええ、ですから私は、薬を調合する時には慎重を喫します。もちろん急を要する時は、そうできないこともありますが……」
「それは……」

 私は、事前に頼んでおいたネズミが入ったゲージを手に取った。
 今回そのネズミには、重要な役割がある。

「今回は、ギルーゼ殿下の血を使って二種類の薬を作ります。一つは石化を解く薬、もう一つは石化させる薬です」
「……そのネズミで、実験を行うということか?」
「はい。まずは石化できるか、ということからですが……」

 とりあえず一つ一つ試していくしかないというのが、現状だ。
 ただ、それ程時間があるという訳ではない。実の所、石化に関する薬を調べる中で、石化そのものについてもわかったのだ。

「クルセルド殿下は、既に一か月近く石化しています。石化を解いた生還した例は、最長で一年……ですが、一か月で亡くなった例もあります」
「……脈や温もりが感じられている故に、無事は確かだが、いつ何があるかはわからない」
「ええ、余裕なんて持つことはできません。今回の薬で、成果が得られるといいのですが……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

処理中です...