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6.兄弟ならば

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「……針も刺さらないとはな」
「ええ……」

 クルセルド殿下の血によって、薬が作れるかもしれない。
 古代の魔物や新薬を作るよりも、それは容易な方法であると思っていた。
 ただ、これにも問題があった。クルセルド殿下の血を採ることも、できないのだ。

「クルセルドを傷つけるような真似は、今までしてこなかった。故にわからなかったが、この石化という現象はちょっとやそっとの衝撃で、揺るぐものではないらしい」
「……私も、その辺りについては少し理解が足りなかったようです。申し訳ありません」
「いや、あなたが謝ることではない。しかし、これ以上のことはできないな。試した結果、クルセルドの体が壊れたら、元もこうもない」

 ギルーゼ殿下は、手に持っていた注射器をしまった。
 クルセルド殿下の体に何かをするということは、場合によっては取り返しのつかないことになる可能性がある。
 故に採決は、ギルーゼ殿下が行っていた。何かあっても、責任は自分にあるとするために、彼は自ら率先して行動しているのだ。

 そんな彼の姿勢に、私は敬意を抱いていた。
 だからこそ、これによって問題が解決できないことをもどかしく思った。どうやら私の見通しは、甘かったようだ。

「クルセルドの血を、直近で採血したということもない。血を手に入れることは、難しいかもしれないな……」
「……ギルーゼ殿下、クルセルド殿下は怪我などはしていなかったのですか?」
「怪我? いや、俺が知っている限りではないが……」
「怪我は良いことではありませんが、怪我をしていれば衣服に血などが付いているかもしれません」
「念のために確認しておくが、あまり期待はできないだろうな……」

 ギルーゼ殿下は、項垂れていた。一度希望が見えたからか、かなり落ち込んでいるようだ。
 私もそうしたいくらいの気分ではあるが、なんとか自分を奮い立たせる。
 私は薬師なのだ。患者の家族と一緒に落ち込んでいい立場ではない。今私がやるべきことは、必死に頭を働かせることだ。

「……ギルーゼ殿下、あなたの血をもらえませんか?」
「……何?」
「あなたとクルセルド殿下は、兄弟です。もしかしたらギルーゼ殿下の中にも、魔物の遺伝子があるかもしれません。それによって、薬を作ります。どうなるのかは、正直わかりませんが……可能性はあると思います」
「そういうことなら、俺の血でもなんでも持っていってくれ。クルセルドのためになら、安いものだ」

 私の提案に、ギルーゼ殿下は再び注射器を手に取った。
 彼はそれを迷いなく自分の手に刺す。
 それが今回の状況を打破する手がかりになるのかは、五分五分といった所だ。しかし今は、一つ一つ試していくしかない。
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