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13.あの一時から

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『……婚約、ですか?』
『ええ、ああいや、婚約というと語弊がありますね。正確に言えば、婚約の約束です』

 お父様の失脚を狙うと決めた時、私はレグファー様の代わりにエンバラス伯爵家の跡取りになる人物が必要だと思った。
 それに相応しい人物とは、ルライド様以外思いつかなかった。彼のような紳士的で優しい人物に夫になってもらいたいと、私は舞踏会で助けてもらった時から思っていたのだ。

『僕でよろしいのでしょうか?』
『あなたがいいと、私は思っています。ルライド様は、紳士的な人ですから』
『そこまで評価していただけているのはありがたいと思っています……正直な所、僕もあなたには好感を持っていました。あの舞踏会で踊った時から』
『……そうでしたか』

 ルライド様は、私に対して好意的な回答を返してくれた。
 それはなんとなく期待していたことではある。あの一時は、私達にとって掛け替えのない時間だった。そう思っていたからだ。

『ああ、もちろん、ヴェルトン子爵の許可が取れて、初めて実現できることではありますが……』
『それに関しては問題ないと思います。父上も反対はしないでしょう。実質的に伯爵家と繋がりを持てるのですから、大きな利益に繋がります』
『そういうことなら安心できますね』

 当然のことながら、婚約というものは私達だけで決められることではない。ヴェルトン子爵家とは、しっかりと話し合っておく必要がある。
 ただルライド様の雰囲気的に、大丈夫そうだ。彼は父親とも仲が良いようだし、その見通しが間違っているということもないだろう。

『問題は、僕が先代のエンバラス伯爵夫妻に認められるかどうか、ですね』
『それに関しても問題はないかと。ルライド様なら、あの二人も認めざるを得ないでしょうから』
『それはどういう意味なのでしょうか?』
『あなたには非の打ち所がないからです』
『少々、荷が重いような気もしますが、まあいいでしょう。頑張ってみます』

 ルライド様は、少し緊張している様子だった。
 だが、私は本当に問題がないと思っている。厳格なお祖父様とお祖母様は、むしろルライド様のような実直な人は気に入りそうだ。

『それでは、とりあえずそういう風に話を進めていきましょう。これからお願いしますね、ルライド様』
『ええ、アナティア嬢』

 私の言葉に、ルライド様は力強く頷いてくれた。
 こうして私は、お父様とレグファー様を打ち倒した後、ともにエンバラス伯爵家を背負ってくれる相手を得ることができたのだった。
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