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9.人を見る目

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 レグファー様が屋敷を去った後、私はお父様の元に来ていた。
 お父様は、明らかに上機嫌である。今回の婚約を喜んでいるということなのだろう。

「ふん、役立たずだと思っていたが、お前も中々に役に立つではないか。あのような男に見初められるとはよくやった」
「……」

 お父様に褒められるなんて、一体いつ振りのことだろうか。いや、もしかしたら初めてのことかもしれない。
 それくらい、お父様は機嫌がいいということなのだろう。レグファー様をかなり気に入っているようだ。

「お父様は、レグファー様のことを高く評価されているようですね?」
「む? ああ、まあ、確かにそうだな。あの男は礼儀正しく、賢い男だ。ああいう男は欲しいと思う。誰もがそう思うものだろう」

 お父様の言葉に、私は固まってしまう。
 なんとなく察していたことではあるが、彼は本当にレグファー様を心から評価しているらしい。
 彼の本性をお父様はまったくわかっていない。舞踏会の参加者の多くが知っている事実を把握していないとは、驚きである。

「お父様はご存知ないのですが、レグファー様の噂を」
「うん? ああ、確かにそういった噂が流れているということは耳にしている」
「なっ……それならどうして婚約を?」
「アナティア、お前は何もわかっていないな。私は彼と直接話して、彼という人間を知ったのだ。それはまた聞きの噂などとは違いリアルだ。つまり、私が感じたことの方が正しい」

 お父様は、私に対してため息をついた後、そう力説してきた。
 その判断は、愚かとしか言いようがないだろう。火のないところに煙は立たない。噂になるということは、少なからず根拠があるということだ。

「お言葉ですが、その考え方は短絡的です。噂が事実無根なんて、あり得ないでしょう」
「彼はその容姿と中身から、様々な令嬢を虜にしている。大方、袖にされた者達が噂を流しているのだろう。そういう意味では、お前はもっと誇るべきだぞ?」
「……人を見る目がないのは、お父様の方だったようですね」
「うん?」
「いえ、なんでもありません」

 お父様の目は、節穴だった。あのレグファー様を信じ切っている。
 しかし私は、なんとかしてこの婚約を覆さなければならない。あのレグファー様とこのまま結婚したら、エンバラス伯爵家は終わりだ。
 お母様のことがあるため、それは困る。療養のために、私はこの家を守らなければならない。
 つまり私は、エンバラス伯爵家の名誉を守った上で、この婚約を破談にする必要がある。それなりに難しいことであるような気はするが、なんとかするしかない。
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