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 私は、再びお父様に呼び出されていた。
 先日のことがあったので、まず間違いなく、婚約の話だろう。ドスペル様との婚約は、一体どうなったのだろうか。

「さて、結論から伝えよう。デニーク公爵家との婚約はなくなった」
「そ、そうですか……」

 どうやら、ドスペル様との婚約はなくなったようだ。
 ということは、彼の噂は本当だったということだろう。私が抱いた印象の通り、彼は軽薄な人間だったのだ。

「まあ、彼のことを必要以上に悪く言う必要もない。これは、終わったことだ」
「そ、そうですね……」
「次の話に移ろうか。実の所、お前に新たな婚約の話が出ている」
「あ、そうなのですね……」

 お父様は、ドスペル様の話を終わらせて、次の話に移った。
 私の新たな婚約の話、それは少し驚きである。まさか、こんなにすぐ話が出てくるとは思っていなかったからだ。

「ドルーム公爵家の次男バストスとの婚約の話がきている」
「バストス様……」

 お父様の口から出た名前に、私は少し考えることになった。
 バストス様のことは、名前は聞いたことがある程度の知識しかない。ドスペル様と違って、どのような人物かあまりわからないのだ。
 そのため、なんともいえない反応になった。ただ、そもそも、私にとって婚約の話そのものが明るいものではないため、どちらかというと暗めの反応になっていると思う。

「彼に関しては、まだ特に問題があるという話は聞いていない」
「え? まだ?」
「うむ、実は、ヴィルクドがまた調査すると言っていてな……あいつは、余程お前のことが心配なようだ」
「そ、そうですか……」

 お兄様は、またも私の婚約者候補の調査を行っているらしい。
 それは、私にとってありがたいことである。だが、少しだけ複雑な気もしてしまう。
 お兄様が婚約者を調べるのは、妹のため。それが伝わって来て、なんだか悲しくなってくるのだ。
 もちろん、そんなことを思うべきではないということはわかっている。私は、卑しい人間だ。善意で動いてくれているお兄様に、そんなことを思うなんて。

「まあ、公爵家の子供が、そうそう問題を起こしている訳ではないだろう。今度こそは、話も固まってくれるはずだ」
「そう……ですよね」
「……もちろん、調査の結果によっては当然この婚約も断るつもりだ。お前を不幸にするようなことはないから、安心してくれ」
「……はい、ありがとうございます、お父様」

 お父様は、私に優しく微笑みかけてくれた。
 お兄様と同じく、お父様も私のことは大切にしてくれている。その温かさを理解して、私の心のもやもやは少しだけ晴れるのだった。
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