19 / 19
19.家族として
しおりを挟む
「……エレティア嬢はご家族と仲がよろしいのですね?」
「そ、そうですね。仲は良い方だと思っています。でも、すみません。お兄様の態度が少し冷たくて……」
「いいえ、問題ありませんよ。むしろ、好感を覚えましたから」
私の家族と会ったジオート様は、笑顔を浮かべてくれていた。
その笑みに、私は安心している。ジオート様に対して、お兄様が刺々しかったからだ。
お兄様が、私のことを愛してくれていることは理解していた。
ただ、その愛は大き過ぎるのかもしれない。何の非もないジオート様にさえ、そういう態度を取るというのは、そう言わざるを得ないだろう。
「それに、エレティア嬢に最初に婚約を申し込んだのだが、あのルベルス伯爵令息ですからね。警戒するのも当然ということでしょう」
「いえ、お兄様はジオート様に対して警戒などはしていないと思います。警戒していたら反対するはずですから」
「えっと、それはつまり……」
「単純に、私が結婚するのが嫌というか……」
「ふふ、そうですか」
ジオート様は、どこか嬉しそうにしていた。
私のお兄様から少なからず敵意を向けられているという状況は、彼にとってはそれ程いい状況ではないはずなのだが。
「僕も家族の一員として認められるように、頑張らないといけませんね」
「そう言っていただけるのはありがたいです。といっても、私が嫁ぐ形になる訳ですから、その心配を真にするのは私の方でしょうけれど」
「それについては、問題ありませんよ。僕の両親も弟達も、エレティア嬢のことを認めます。それは僕が保証しますよ」
「そ、そうですか……」
私にとって、フォルガー侯爵家の人々との関係はとても心配なことだった。
それを保証してもらえるのは、とても心強い。もちろん、それで完全に安心することができるという訳ではないのだが。
「あなたは、本当に美しい人ですからね……」
私を見ながら、ジオート様はゆっくりとそう呟いた。
彼は本当に心から、私を褒め称えてくれている。それはとても嬉しいのだが、ここまで真っ直ぐな言葉を受け止めるのは少々難しい。やはり恥ずかしいのだ。
「美しいのは、ジオート様もそうだと思いますけど……」
「ありがとうございます」
「す、少し照れていただけませんか?」
「照れていない訳ではありませんよ。ただ、それ以上に嬉しいというだけです」
試しに褒めてみたが、彼の表情はそれ程変わらなかった。
なんというか、彼には敵わないような気がする。その明るい笑顔に、私はそんなことを思っていた。
しかし何はともあれ、今の状況は私が望んでいたものだ。
ジオート様という最高の婚約者に恵まれ、オーデン伯爵家にも貢献できる。一時はどうなるかと思っていたが、本当に幸福な未来を掴み取ることができそうだ。
私は再び、ジオート様の顔を見る。
彼の笑顔に、私はこれから訪れるであろう明るい未来に、そっと思いを馳せるのだった。
END
「そ、そうですね。仲は良い方だと思っています。でも、すみません。お兄様の態度が少し冷たくて……」
「いいえ、問題ありませんよ。むしろ、好感を覚えましたから」
私の家族と会ったジオート様は、笑顔を浮かべてくれていた。
その笑みに、私は安心している。ジオート様に対して、お兄様が刺々しかったからだ。
お兄様が、私のことを愛してくれていることは理解していた。
ただ、その愛は大き過ぎるのかもしれない。何の非もないジオート様にさえ、そういう態度を取るというのは、そう言わざるを得ないだろう。
「それに、エレティア嬢に最初に婚約を申し込んだのだが、あのルベルス伯爵令息ですからね。警戒するのも当然ということでしょう」
「いえ、お兄様はジオート様に対して警戒などはしていないと思います。警戒していたら反対するはずですから」
「えっと、それはつまり……」
「単純に、私が結婚するのが嫌というか……」
「ふふ、そうですか」
ジオート様は、どこか嬉しそうにしていた。
私のお兄様から少なからず敵意を向けられているという状況は、彼にとってはそれ程いい状況ではないはずなのだが。
「僕も家族の一員として認められるように、頑張らないといけませんね」
「そう言っていただけるのはありがたいです。といっても、私が嫁ぐ形になる訳ですから、その心配を真にするのは私の方でしょうけれど」
「それについては、問題ありませんよ。僕の両親も弟達も、エレティア嬢のことを認めます。それは僕が保証しますよ」
「そ、そうですか……」
私にとって、フォルガー侯爵家の人々との関係はとても心配なことだった。
それを保証してもらえるのは、とても心強い。もちろん、それで完全に安心することができるという訳ではないのだが。
「あなたは、本当に美しい人ですからね……」
私を見ながら、ジオート様はゆっくりとそう呟いた。
彼は本当に心から、私を褒め称えてくれている。それはとても嬉しいのだが、ここまで真っ直ぐな言葉を受け止めるのは少々難しい。やはり恥ずかしいのだ。
「美しいのは、ジオート様もそうだと思いますけど……」
「ありがとうございます」
「す、少し照れていただけませんか?」
「照れていない訳ではありませんよ。ただ、それ以上に嬉しいというだけです」
試しに褒めてみたが、彼の表情はそれ程変わらなかった。
なんというか、彼には敵わないような気がする。その明るい笑顔に、私はそんなことを思っていた。
しかし何はともあれ、今の状況は私が望んでいたものだ。
ジオート様という最高の婚約者に恵まれ、オーデン伯爵家にも貢献できる。一時はどうなるかと思っていたが、本当に幸福な未来を掴み取ることができそうだ。
私は再び、ジオート様の顔を見る。
彼の笑顔に、私はこれから訪れるであろう明るい未来に、そっと思いを馳せるのだった。
END
60
お気に入りに追加
703
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
初夜をボイコットされたお飾り妻は離婚後に正統派王子に溺愛される
きのと
恋愛
「お前を抱く気がしないだけだ」――初夜、新妻のアビゲイルにそう言い放ち、愛人のもとに出かけた夫ローマン。
それが虚しい結婚生活の始まりだった。借金返済のための政略結婚とはいえ、仲の良い夫婦になりたいと願っていたアビゲイルの思いは打ち砕かれる。
しかし、日々の孤独を紛らわすために再開したアクセサリー作りでジュエリーデザイナーとしての才能を開花させることに。粗暴な夫との離婚、そして第二王子エリオットと運命の出会いをするが……?
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません
新野乃花(大舟)
恋愛
ミリアは王国の財政を一任されていたものの、国王の無茶な要求を叶えられないことを理由に無能の烙印を押され、挙句王宮を追放されてしまう。…しかし、彼女は豊穣の加護を有しており、その力でかろうじて王国は財政的破綻を免れていた。…しかし彼女が王宮を去った今、ついに王国崩壊の時が着々と訪れつつあった…。
※カクヨムにも投稿しています!
※アルファポリスには以前、短いSSとして投稿していたものです!
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
自分こそは妹だと言い張る、私の姉
神楽ゆきな
恋愛
地味で大人しいカトリーヌと、可愛らしく社交的なレイラは、見た目も性格も対照的な姉妹。
本当はレイラの方が姉なのだが、『妹の方が甘えられるから』という、どうでも良い理由で、幼い頃からレイラが妹を自称していたのである。
誰も否定しないせいで、いつしか、友人知人はもちろん、両親やカトリーヌ自身でさえも、レイラが妹だと思い込むようになっていた。
そんなある日のこと、『妹の方を花嫁として迎えたい』と、スチュアートから申し出を受ける。
しかしこの男、無愛想な乱暴者と評判が悪い。
レイラはもちろん
「こんな人のところにお嫁に行くのなんて、ごめんだわ!」
と駄々をこね、何年かぶりに
「だって本当の『妹』はカトリーヌのほうでしょう!
だったらカトリーヌがお嫁に行くべきだわ!」
と言い放ったのである。
スチュアートが求めているのは明らかに可愛いレイラの方だろう、とカトリーヌは思ったが、
「実は求婚してくれている男性がいるの。
私も結婚するつもりでいるのよ」
と泣き出すレイラを見て、自分が嫁に行くことを決意する。
しかし思った通り、スチュアートが求めていたのはレイラの方だったらしい。
カトリーヌを一目見るなり、みるみる険しい顔になり、思い切り壁を殴りつけたのである。
これではとても幸せな結婚など望めそうにない。
しかし、自分が行くと言ってしまった以上、もう実家には戻れない。
カトリーヌは底なし沼に沈んでいくような気分だったが、時が経つにつれ、少しずつスチュアートとの距離が縮まり始めて……?
悪役令嬢のお姉様が、今日追放されます。ざまぁ――え? 追放されるのは、あたし?
柚木ゆず
恋愛
猫かぶり姉さんの悪事がバレて、ついに追放されることになりました。
これでやっと――え。レビン王太子が姉さんを気に入って、あたしに罪を擦り付けた!?
突然、追放される羽目になったあたし。だけどその時、仮面をつけた男の人が颯爽と助けてくれたの。
優しく助けてくれた、素敵な人。この方は、一体誰なんだろう――え。
仮面の人は……。恋をしちゃった相手は、あたしが苦手なユリオス先輩!?
※4月17日 本編完結いたしました。明日より、番外編を数話投稿いたします。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
聖女の私は妹に裏切られ、国を追放することになりましたがあなたは聖女の力を持っていないですよ?〜国を追放され、劣悪な環境の国に来た聖女の物語〜
らん
恋愛
アデリーナ・ハートフィールドはシライアという国で聖女をしていた。
ある日のこと、アデリーナは婚約者であり、この国の最高権力者ローラン・ベイヤー公爵に呼び出される。その場には妹であるグロウィンの姿もあった。
「お前に代わってグロウィンがこの国の聖女となることになった」
公爵はそう言う。アデリーナにとってそれは衝撃的なことであった。グロウィンは聖女の力を持っていないことを彼女は知っているし、その力が後天性のものではなく、先天性のものであることも知っている。しかし、彼に逆らうことも出来ずに彼女はこの国から追放された。
彼女が行かされたのは、貧困で生活が苦しい国のデラートであった。
突然の裏切りに彼女はどうにかなってしまいそうだったが、ここでただ死ぬのを待つわけにもいかずに彼女はこの地で『何でも屋』として暮らすことになった。
『何でも屋』を始めてから何日か経ったある日、彼女は平和に過ごせるようになっていたが、その生活も突然の終わりを迎える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
家名ですが…
オーバンorオーデンどちらなのでしょう?
ご指摘ありがとうございます。
オーデンが正しいです。
間違っていた点は修正させていただきます。