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16.同情など

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 お父様が婚約に関する丁重なお断りの手紙を書いてからしばらくして、オーデン伯爵家にルベルス様とラガルス伯爵が訪ねてきた。
 二人は、ひどく怒っている様子だ。だからか、急な来訪に外まで出てきた私を、同じ理由で外に出てきたお父様は、庇うように立ってくれていた。

「オーデン伯爵、今回の無礼は到底許せるものではありませんな。まさか、このルベルスに恥をかかせるとは」
「ラガルス伯爵、今回の件については申し訳なく思っています。しかしながら、娘には事情があります。せっかくの婚約の申し出でしたが、こちらとしてはそれに乗ることはできません」

 お父様は、怒るラガルス伯爵に対して堂々と対応していた。
 静かながらも威厳あるその口調に、私は少し驚く。ここまでお父様から怒りの感情を感じるのは、初めてかもしれない。
 それだけ、お父様はラガルス伯爵家に敵意を感じているということだろうか。

「エレティア、君は自分達がどんな主張をしているのか、本当にわかっているのか?」
「ルベルス様……」
「君に婚約を申し込む者なんて、僕以外にはいないぞ? 僕は不幸な君を気遣い、婚約してあげようと思っていたというのに」
「……勝手に私に同情しないでください。確かに困難はありましたが、私は不幸ではありません」
「何?」

 ルベルス様は、自分の言葉に対する私の返答にその表情を歪めていた。
 彼は私のことを見下していた。痣があるから可哀想だと決めつけて、同情しているのだ。
 それは私にとって、不快なことだった。なぜなら私は、自分のことを不幸だと思ってなどいないからだ。

「強がりを……」
「強がりなどではありません。私には私を愛してくれる家族がいました。それは私にとっては何よりも心強い、味方だったのですから」

 ルベルス様に対して、私ははっきりと言った。
 私は幸せなのである。彼がひどく勘違いしているそのことだけは、指摘しなければならないことだったのだ。

「お前なんかが、この僕を侮辱し恥をかかせるなんて……許されることではないぞ!」

 私に対して、ルベルス様は怒っていた。
 彼は真っ赤な顔をして、こちらを睨みつけている。私に反論されたことが、余程気に入らなかったらしい。

「……みっともないですね」
「え?」

 そんなルベルス様に、声をかける者がいた。
 その聞き覚えがある声に、私は驚く。その声の持ち主が、ここにいるはずはないからだ。

「あ、あなたは……ジオート様?」
「お久し振りですね、エレティアさん」

 そこにいるのは、間違いなくフォルガー侯爵家のジオート様だった。
 彼は、以前と同じように綺麗な顔で笑みを浮かべている。その彼がどうしてここにるのかわからず、私は混乱するのだった。
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