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4.舞踏会にて

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 貴族の令嬢である以上、公の場に出ることは避けられない。
 無論、私のような特別な事情を持つ者を隠す家もある。しかしオーデン伯爵家はそうではなかった。私のことも、きちんと娘の一人として公表されているのだ。

 ただ両親は、私が嫌だというなら外に出る必要はないと言ってくれた。
 それについては、私が断ったのだ。私は私に胸を張って生きている。それならば、隠れてこそこそする必要などないと思ったからだ。

 とはいえ、流石に痣をさらけ出すのは気が引けた。
 だから私は、メイクやレース付きの帽子で、痣を隠して舞踏会などの場には出ている。

「あの子のこと、ご存知ですか? オーデン伯爵家の末っ子の……」
「ああ、顔に大きな痣があるというあの?」
「ええ、そうです。可哀想に……でも、よくこんな所に来られますよね? 私だったら、絶対に引きこもっています」

 痣があることから、私はあることないこと言われることも多い。
 ただ私は、そんな風評など気にしていなかった。何を言われても、揺るがない程の心を私は既に持っている。家族が支えてくれたおかげで、私は大抵のことでは折れなくなっているのだ。

「ごきげんよう」
「え? あ、その、ごきげんよう」
「あ、え? わ、私達に何か御用ですか?」

 私は、私のことを噂していた二人に話しかけた。
 その二人のことを、私はよく知らない。恐らく向こうも、私のことは知らないだろう。

 しかし二人は、まだ柔らかい態度で私のことを話していた。
 侮蔑ではなく、同情といった感情の方が大きそうだった二人には、好感が持てる。だからお友達になるために、話しかけたのだ。

「お二人が、こちらを見ていたので、少し気になってしまって」
「あ、すみません。見てしまって」
「いいえ、謝るようなことではありません。私は、私が目立つということをよく理解していますからね。しかしこれも、一つの縁。よろしかったら、少しお話しませんか?」
「お、お話ですか?」

 突然の提案に、二人は少し困惑しているようだった。
 だが、ここで遠慮するのは良くない。私は人にただでさえ距離を取られやすいため、その分こちらから詰めていく必要があるのだ。

「わ、私達は別に構いませんけれど……」
「ええ、今は確かに暇ではありますけど……」
「それなら、少しお話しましょうか」

 私はこうやって、交友関係を広げてきた。
 それは決して、容易い道という訳でもなかった。ただそれでも、私はそういう道を歩んでいくと決めているのだ。
 胸を張って生きること、それが私の今の目標なのである。
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