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36.背負うべきは

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「ふう……」

 お父様の病室から出て来た私は、ゆっくりとため息をついた。
 するとクレンド様が、少し気まずそうな顔をしながらこちらに視線を向けた。彼としても、色々と思う所はあるのだろう。その表情からは、それが伺える。

「レフティア嬢、大丈夫か?」
「クレンド様、ええ、私は大丈夫です」
「そうか。少し憔悴しているように見えたのだが……」
「そうですね……疲れていないと言ったら、嘘になります」

 クレンド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 お父様のことで、重たい気持ちになったことは間違いない。多分私は、かなり疲れた顔をしていることだろう。
 ただ、気持ちはどちらかというと晴れやかだ。とりあえずこれで、お父様がその権力を乱用することもなくなった訳だし、それ自体は喜ばしいことではある。

「クレンド様、改めてお礼を言わせてください。本当に、ありがとうございました。クレンド様のお陰で、やっとお父様を黙らせることができました」
「それについては、君の努力の賜物だ……こんなやり取りを前にも交わしたな」
「ええ、そうですね……」

 今回の件に関して、私はクレンド様の協力がなければ成し遂げられなかったと思っている。
 ただ、それをあまり言うのは良くないことなのかもしれない。彼はこれについて誇ろうとしていないのだから。
 そもそもの話、ヴェリオン伯爵家の結末を彼に背負わせるのも、微妙な所だ。責任は私にあるのだから、成果も自分のものとしてしまった方が、後腐れはないのかもしれない。

「まあ、そういうことなら誇らせてもらいます」
「む? 急にどうしたのだ?」
「いえ、あまり謙遜するのもどうかと思いまして」

 クレンド様は、これからはヴェリオン伯爵家のことなど忘れて生きてもらわなければならない。
 もちろん領地のことは任せる訳だが、少なくともお父様やペルリナやロメリアのことは、彼が背負うことではない。私が背負うべき事柄だ。
 だからそろそろ、彼とは離れなければならない。悲しいことではあるが、今日という日が彼と過ごす最後の時ということになるだろう。

「そうか……そういうことならいいのだが」
「ええ、さてと、それではそろそろ……」
「ああ、ロメリア嬢の元に向かうのだったな?」
「あ、はい。そうですね。念のため、彼女のことも見届けておきましょう」

 クレンド様と別れようと思っていた私は、彼の言葉にほぼ反射的に頷いていた。
 彼とまだ別れたくない。そういった思いが、私の中にはあるのかもしれない。
 とはいえ、ロメリアとはクレンド様も関わっていた。そんな彼女のことは彼も気になっているかもしれないし、ここは二人で一緒にロメリアの元を訪ねるとしよう。
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