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19.息抜きになるなら

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 王城内が警戒態勢になってから、私は自室でゆっくりと過ごしていた。
 騒ぎがかなり大きくなっているため、部屋から出ないようにしているのだ。
 王城内は、兵士達見回りをしている。張り詰めた空気なのだ。そんな中を歩くというのは、それ程気分がいいことではないのである。

 私は別に、ロウガスト様の婚約者を目指していない。そのため、ここに籠っていてもそこまで問題はないのだ。
 他の婚約者候補達は、彼と接さなければならない。この王城で、何かしらのことをする必要があるだろう。
 だが、私は気ままに暮らしていても問題はない。他の令嬢達、特にコーネリア嬢には申し訳ないとは思うのだが。

「……失礼します」
「……え?」

 そんなことを考えながら過ごしている私の元に、訪ねて来る人がいた。
 部屋の戸を叩く音とともに聞こえてきた声に、私は動揺する。なぜなら、その声は明らかにロウガスト様の声だったからだ。

「ロウガスト様、どうかされたのですか?」
「少しあなたと話がしたくて……」
「私と話ですか?」

 私が部屋の戸を開くと、そこには確かにロウガスト様がいた。
 彼の言葉に、私は少し首を傾げる。彼は何故、こんなことを言ってくるのだろうか。
 私は、婚約者を目指していない。それを彼も知っているはずだ。それなのに、私を訪ねてくる。それには、どういう意図があるのだろうか。

「別に構いませんけど……私と話していても大丈夫なのですか?」
「えっと……それは、どういうことでしょうか?」
「ロウガスト様の婚約者選びに、私はあまり関係ないような気がするんですけど……」
「そうですね……まあ、僕もそればかりを気にしているという訳でもありませんから」
「……それも、そうですね」

 ロウガスト様の言葉に、私は自らの考えが短絡的だったと理解した。
 よく考えてみれば、彼もそればかりを気にしていると息が詰まってしまう。
 そんな彼にとって、ある程度親しく婚約に関係ない私と話すのは、いい息抜きになるのかもしれない。

「わかりました。それなら、一緒に話しましょうか? 部屋に入りますか?」
「あ、いえ、それは流石に……」
「……あ、そうですよね。それなら、どこか適当な場所に行きますか?」
「ええ、そうしましょう」

 私の言葉に、ロウガスト様はゆっくりと頷いた。
 一瞬抜けていたが、彼を部屋に入れるというのはまずいことだ。中々、はしたないことを言ってしまったかもしれない。
 こうして、私はロウガスト様と少し話すことにするのだった。
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