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23.棺桶の上に

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「……何?」
「……え?」

 部屋に入ったロナード様と私は、すぐに驚くことになった。
 部屋の中央にある棺桶の上には、一人の人物が座っている。レオルード様が眠っているとされていた棺桶の上に、不遜にも誰がいるのだ。
 しかし、より驚くことになったのはその人物が誰であるかを理解した時だった。その人物の顔は、よく知っている。この国で最も有名な人だ。

「あ、兄上? ど、どうして生きているんだ」
「……久し振りだな、ロナード。元気そうで何よりだ」
「いや、元気そうって……さっきまで兄上が死んだと聞いて落ち込んでいたんだが」

 棺桶の上に座っていたのは、レオルード様だった。
 亡くなったはずの彼が、生きて動いている。その事実に、私もロナード様も平静ではいられない。

「死か……確かに、私は死んだ。レオルードという男は、既にこの世にいないということになっている」
「いや、兄上は目の前にいるだろう? まさか、偽物という訳でもあるまいし」
「お前の私しか知らないエピソードでも話してやろうか。そうだな……あれは、天気のいい日の話だった。お前が中庭の芝生で寝ている所に動物が集まって、大変なことになっていたな……」
「む……まあ、多分本物だろうな。この感じは偽物には出せない」

 ロナード様のお墨付きもあったので、目の前にいるのはレオルード様に間違いないようである。
 だが、私達は確かに彼が亡くなったという手紙を見たし、王城もそんな様子だった。棺桶まで用意されているし、彼が亡くなったというのは少なくとも表面上は事実と考えるべきであるだろう。

「それなら、一体どうして兄上は死んだことになっているんだ」
「その理由は簡単だ。私は王位を捨てたくなった」
「……なんだって?」

 レオルード様の言葉に、ロナード様は呆れたような顔をする。
 今彼はとんでもないことを言ったような気がするが、ロナード様はそれ程驚いていないような気がする。もしかしたら、レオルード様のこのような行動はいつものことであるということなのかもしれない。

「私は国王などという柄ではない。お前が私に押し付けたから、この地位を甘んじて受け入れていただけだ」
「いや、兄上は賢王と呼ばれているだろう?」
「国の運営で言えば、お前の方に才覚がある。私は、ただお前を真似ていただけに過ぎん」
「お、俺だって国王なんて柄ではない」
「かつてお前は私に王位を押し付けた。ならば、今度は私がお前に王位を押し付ける。これでお相子だろう」
「お相子だとしても、そのためにわざわざ死ぬ奴があるか!」

 二人は、私の目の前でそのような会話を交わした。
 賢王と知られているレオルード様だが、どうやらそれは表面上のものだったらしい。こちらが、素の彼なのだろう。
 兄弟揃って、国王の地位が嫌だ。なんというか、二人は似た者兄弟であったらしい。
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