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15.領主として

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「……そういえば、この辺りには何もありませんね」
「うん? ああ、まあ、そういう所を兄上が割り当てたからな」
「えっと、この領地の住民は一体どこにいるんですか?」
「ここからかなり離れた所さ。具体的には、歩いて来たのと逆の方向だ。そっちの方には、村がいくつかあるぜ」
「そうなんですね……」

 家の周りを歩いたが、本当に何もなくて私は少し心配になってきた。
 だが、どうやら歩いた方向が悪かっただけであるらしい。きちんと、この辺りに暮らしている人達はいるようだ。

「といっても、住人の数はそれ程多くはないがな……」
「領地は広いのですよね……どうして、人がいないんですか?」
「まあ、この辺りはいいんだけど、少し行ったら森とか山がほとんどだ。それに、ここに来るまでの道を考えればわかるだろう?」
「そういえば、そうですね……険しい道でした」
「そういう訳で、この辺りに好んで住む奴はいないのさ。昔から暮らしている人達の末裔以外はな」

 ロナード様の家に来るまでの道のりは、それなりに険しい道だった。
 発展している町から距離もそれなりにあったし、確かにこの辺りに住もうとは思わないかもしれない。

「でも、皆いい奴だし、案外暮らしてみるといい所だと思うぜ」
「そうなんですね……」
「というか、あなたが食べた食料はこの辺りの奴らからもらったものだ。何か採れると持ってきてくれるのさ」
「あ、それはありがたいですね」
「ああ、皆がいないと俺は生きていけなかっただろうな」

 ロナード様は嬉しそうにそう語っていた。
 領地の人々は、本当にいい人なのだろう。採れたものをもらえることから、きっと領地の人に彼も慕われているはずだ。
 領民といい関係を築けているのはいいことである。領主としての彼は、有能といえるのかもしれない。

「まあ、この辺りは助け合わないと生きていけないという事情もある。というか、ここで孤立したら大変だ」
「ああ、よく考えてみればそうですよね。ここ自体が孤立したような場所ですから……あれ? それでは、ロナード様は何を?」
「何をって、一応領主としての仕事をしているに決まっているだろう」
「でも、仕事はほとんどないんですよね?」
「まあ、それはそうなんだが……だけど、外部とのやり取りとかをする時には、俺の存在が一応不可欠なんだぜ?」
「そうなんですね……」

 ロナード様も、一応領主として頼られているようだ。
 やはり、彼は無能という訳ではないだろう。この僻地ともいえる領地を立派に管理しているようだ。
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