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21.大きな別れ
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「ふう、結局今日は何もなかったね」
「ああ、正直安心した」
夕方、家の近くまで来た私とロヴァイドはそのような会話を交わした。
今日は、特に事件が起こることはなかった。とりあえず、一安心である。もちろん、まだ完全に安心という訳ではないのだが。
「昨日は色々とばたばたしっちゃったからわからなかったけど、この村のいつも通りの姿が見られて楽しかったよ」
「そうか……でも、それ程変わってはいなかっただろう?」
「うん、そうだね。まあ、それがむしろ安心するというか……」
「まあ、長く離れているとそう思うものか」
帰って来た時は、ほぼ一直線に家に向かったし、昨日は魔物騒ぎがあったことで、落ち着いて村の様子を見られたのは今日が初めてだ。
幼い頃から、この村はほとんど変わっていない。それがなんだかとても安心できた。
ただ、変わっている部分がなかったという訳ではない。長い間は慣れていたと実感できる光景もあったのだ。
「でも、昔一緒に遊んでいた子達なんかが今は立派に働いているのを見ると、やっぱり皆成長しているんだなって思ったな」
「……それはそうだろう。アフィーリだって、大きくなった」
「帰って来た時も、そんなことを言っていたよね?」
「ああ、目に見えて変わっている……訳でもないな」
「うん? どうかしたの?」
そこでロヴァイドは、突然笑い出した。何か面白いことでもあったのだろうか。
「いや、俺のアフィーリの印象というのは、出て行った時の印象なのだと思ったんだ」
「え? ああ、それはなんとなくわかるかも。私も、まだその時の印象を引きずっているような気がする」
「まあ、あそこれが俺達の大きな別れだった訳だからな」
「そうだね……」
私が村を出て行ったことは、確かに大きな別れだったといえるだろう。
昔は、この村で一生を過ごすと思っていた。ロヴァイドもそう思っていたはずだ。だから、あの別れは本当に大きな分岐点だったといえるだろう。
「結局、こうして戻って来た訳だけど……」
「俺にとっては、嬉しいことさ。王都で立派にやっていると聞いても、そんなに明るい気持ちにはなれなかったからな」
「そっか……それなら戻って来て良かったと思ってもいいのかな」
「いや、それは俺の考えでしかないさ。アフィーリには、アフィーリの志があった。それを果たせず帰って来たことが、いいことだとはいえないだろうさ」
ロヴァイドの言う通り、私は聖女としてたくさんの人を助けたいと思っていた。
それは果たせなかった願いだ。だが、実の所もうそれ程そのことに執着していない。
それはきっと、離れたことで改めて理解できたからなのだろう。私はこの村が好きであるということが。
「ああ、正直安心した」
夕方、家の近くまで来た私とロヴァイドはそのような会話を交わした。
今日は、特に事件が起こることはなかった。とりあえず、一安心である。もちろん、まだ完全に安心という訳ではないのだが。
「昨日は色々とばたばたしっちゃったからわからなかったけど、この村のいつも通りの姿が見られて楽しかったよ」
「そうか……でも、それ程変わってはいなかっただろう?」
「うん、そうだね。まあ、それがむしろ安心するというか……」
「まあ、長く離れているとそう思うものか」
帰って来た時は、ほぼ一直線に家に向かったし、昨日は魔物騒ぎがあったことで、落ち着いて村の様子を見られたのは今日が初めてだ。
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ただ、変わっている部分がなかったという訳ではない。長い間は慣れていたと実感できる光景もあったのだ。
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「……それはそうだろう。アフィーリだって、大きくなった」
「帰って来た時も、そんなことを言っていたよね?」
「ああ、目に見えて変わっている……訳でもないな」
「うん? どうかしたの?」
そこでロヴァイドは、突然笑い出した。何か面白いことでもあったのだろうか。
「いや、俺のアフィーリの印象というのは、出て行った時の印象なのだと思ったんだ」
「え? ああ、それはなんとなくわかるかも。私も、まだその時の印象を引きずっているような気がする」
「まあ、あそこれが俺達の大きな別れだった訳だからな」
「そうだね……」
私が村を出て行ったことは、確かに大きな別れだったといえるだろう。
昔は、この村で一生を過ごすと思っていた。ロヴァイドもそう思っていたはずだ。だから、あの別れは本当に大きな分岐点だったといえるだろう。
「結局、こうして戻って来た訳だけど……」
「俺にとっては、嬉しいことさ。王都で立派にやっていると聞いても、そんなに明るい気持ちにはなれなかったからな」
「そっか……それなら戻って来て良かったと思ってもいいのかな」
「いや、それは俺の考えでしかないさ。アフィーリには、アフィーリの志があった。それを果たせず帰って来たことが、いいことだとはいえないだろうさ」
ロヴァイドの言う通り、私は聖女としてたくさんの人を助けたいと思っていた。
それは果たせなかった願いだ。だが、実の所もうそれ程そのことに執着していない。
それはきっと、離れたことで改めて理解できたからなのだろう。私はこの村が好きであるということが。
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