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 私は、ウェリクス様に連れられて、お風呂場まで来ていた。
 椅子に座らせてもらい、裸足となり、今は彼に足を見てもらっている。

「なるほど……ひどい状態ですね」
「そうなのですか?」
「ええ……どうして、こんなことに?」

 私の足を見て、ウェリクス様は目を丸めていた。どうやら、かなり驚くような状態だったようだ。
 しかし、それは当然のことである。あの熱い地面に、しばらく足をつけていたのだから、まともな状態である訳はない。

「……やけどでしょうか? でも、足の裏をやけどするなんて、どういうことなんです?」
「えっと……」
「言いにくいこと……もしかして、これは誰かが何かをした結果ということでしょうか?」
「え?」
「はっきりと言いましょう。僕はある人に疑いを持っています。アルキーナ・フェルリンド。僕は自身の婚約者に、疑惑の目を向けているのです」
「なっ……!」

 ウェリクス様の言葉に、私は驚いた。アルキーナ様に、疑問を持っている。それは、思ってもいないことだった。
 だが、少し腑に落ちる部分もある。彼は、特に予告せずに屋敷に来ることがあった。今回もそうなのだが、彼女に疑惑の目を向けているなら、その行動が納得できるのだ。
 訪問する日を決めれば、当然アルキーナ様も構えることができる。そうさせないためには、突発的な訪問をする方がいいのだ。

「こう言っては悪いかもしれませんが、あなたはわかりやすい人ですね。表情が、僕の言葉が真実であると語っていますよ」
「え? そうですか?」
「ええ、つまるところ、あなたはアルキーナ嬢によって、このような怪我をしたということになりますね。やはり、彼女は褒められた人間という訳ではないということですか……」

 ウェリクス様は、少しだけ悲しそうな表情を見せた。アルキーナ様を信じたいという気持ちが、彼の中にもあったのだろうか。

「でも、ウェリクス様はどうしてそこまでアルキーナ様を疑っていたのですか?」
「そのことですか? まあ、当然気になりますよね。ですが、少し待っていてください。今、水を汲んできますから」
「お、王子にそんなことをさせる訳には……」
「じっとしていてください。足を怪我している方に労働させるなんて、それこそ王子の名折れですよ。あなたは、そこに座って待っていればいいのです」

 そこで、ウェリクス様は動き始めた。止めようという気持ちもあったが、私は何も言わないことにする。
 正直、足は歩くだけで痛い。こんな状態で色々とするのは、はっきり言って辛いのだ。
 そのため、彼の善意に甘えることにした。彼に関しては、それでいいと思ったのだ。

「さて、それではここに足をつけてください。痛いかもしれませんが、我慢してくださいね。冷やさないと、もっとひどいことになりますから」
「は、はい……」

 桶に入った水に、私はゆっくりと足をつけていく。鋭い痛みが走ってくる。だが、それは我慢だ。彼の言う通り、冷やさなければもっとひどくなる。

「アルキーナ嬢を疑った理由は、とても単純なものです。彼女の使用人に対する態度が、少し気になったのです」
「使用人に対する態度? 何か、アルキーナ様は変なことを言っていましたか?」
「敬意が足りない……とでもいうべきでしょうか? 彼女の使用人に対する態度には、少し棘がありました。無論、それは性格上の問題であり、きちんと使用人に接する人はいます。ですが、少し気になるので、調べてみることにしたのです」

 ウェリクス様は、アルキーナ様を疑った経緯を話してくれた。
 確かに、彼女は使用人に対する態度がいいという訳ではない。私以外の使用人にも、優しいとはいえないような人である。
 だが、それでも、私以外の使用人にはそこまでひどいことはしていないはずだ。それなのに、ウェリクス様はよく気づけたものである。

「結局、僕の予想は当たっていました。残念なことですが、彼女は最低の人間だったということになりますね……」
「えっと……」
「主人に対して、あなたは悪いことを言えないのかもしれません。それは、使用人として確かに必要なことでしょう。ですが、こんな扱いをされているというのに声をあげないということは、言い方は悪いかもしれませんが愚かなことだと思います。あなたは声をあげてもいいのです」
「ウェリクス様……」

 ウェリクス様の言葉に、私は自然と涙を流していた。
 今まで、私は主人のために何も言わなかった。声をあげてもどうしようもないとか、そういう理由もあったが、一番根底にあったのは祖母からの教えである。
 主人の命令は絶対。あの言葉に、私はずっと従ってきた。だが、それでは駄目だったのだ。私は、やっとそれを理解した。
 主人の命令に従うこと。それはきっと、お互いの信頼関係があるからこそできることなのだ。少なくとも、アルキーナ様に従うことは間違っている。彼女のような人間は、主人として定めるべきではない人間だったのだ。
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