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7.止まった馬車

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 私は、国を出て行くために馬車で移動していた。
 幸いなことに、旅路は順調である。このまま行けば、ほぼ予定通りに国を出ることができるだろう。

「記事にはなっていないようね……」

 馬車の中で、私は新聞を読んでいた。
 私が侯爵家を出てから、既に三日が経っている。私の探索が始まっているなら、何かしらの記事が出てもおかしくはない頃だ。
 しかし、新聞には特に私のことは書いていない。少なくとも、まだ記事にはなっていないようではある。

「でも安心することはできないわよね。記事にしていないというだけで探している可能性もある訳だし……」

 お父様とお母様の状況は、こちらからはまったくわからない。どのような判断をしたのかわからない以上、私はただ逃げるしかないというのが現状だ。
 世間体を気にして、水面下で動き記事などにしない可能性も充分ある。故に、まだまだ油断することはできないだろう。

「あら?」

 そこで私は、とあることに気付いた。
 馬車が段々と速度を落としているのだ。まだ目的地には程遠いはずであるのに、馬車はその動きを停止させていく。

「まさか……追手が来たのかしら」

 とりあえず私は、馬車から出ることにした。何があったとしても、状況を把握するためにはそうせざるを得なかったのだ。
 すると私は、すぐに理解することになった。馬車が止まった原因は、下りてすぐに見えてきたのである。

「大丈夫ですか? しっかりしてください」
「うっ……」

 私の目の前では、御者が道端に倒れた人に呼びかけていた。
 どうやら御者は、人命救助のために馬車を止めたらしい
 急いでいる私にとって、それは少々困ることではある。ただ文句を言うつもりはない。人の命よりも優先するべきことなんてないからだ。
 という訳で、私も二人に近寄ることにした。介抱をするなら、一人よりも二人の方がいいだろう。

「あ、お客さん、すみません。急に止まってしまって……」
「いいえ、お気になさらず。それより大丈夫です……か?」

 倒れていたのは、修道服を着た女性であった。そういう服を着ているということは、彼女はまず間違いなく修道女なのだろう。
 そんなことを考えていた私は、その女性の顔を見てひどく驚くことになった。目の前にいる女性の顔には、見覚えがあったからだ。

「お、お姉様……」
「お客さん? ど、どうかされましたか?」
「あ、いえ、なんでもありません……」

 行き倒れた修道女の顔は、お姉様にかなり似ていた。
 数年前行方不明になったお姉様とそっくりな人物が目の前にいる。その事実に、私はとても混乱するのだった。
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