7 / 30
7.止まった馬車
しおりを挟む
私は、国を出て行くために馬車で移動していた。
幸いなことに、旅路は順調である。このまま行けば、ほぼ予定通りに国を出ることができるだろう。
「記事にはなっていないようね……」
馬車の中で、私は新聞を読んでいた。
私が侯爵家を出てから、既に三日が経っている。私の探索が始まっているなら、何かしらの記事が出てもおかしくはない頃だ。
しかし、新聞には特に私のことは書いていない。少なくとも、まだ記事にはなっていないようではある。
「でも安心することはできないわよね。記事にしていないというだけで探している可能性もある訳だし……」
お父様とお母様の状況は、こちらからはまったくわからない。どのような判断をしたのかわからない以上、私はただ逃げるしかないというのが現状だ。
世間体を気にして、水面下で動き記事などにしない可能性も充分ある。故に、まだまだ油断することはできないだろう。
「あら?」
そこで私は、とあることに気付いた。
馬車が段々と速度を落としているのだ。まだ目的地には程遠いはずであるのに、馬車はその動きを停止させていく。
「まさか……追手が来たのかしら」
とりあえず私は、馬車から出ることにした。何があったとしても、状況を把握するためにはそうせざるを得なかったのだ。
すると私は、すぐに理解することになった。馬車が止まった原因は、下りてすぐに見えてきたのである。
「大丈夫ですか? しっかりしてください」
「うっ……」
私の目の前では、御者が道端に倒れた人に呼びかけていた。
どうやら御者は、人命救助のために馬車を止めたらしい
急いでいる私にとって、それは少々困ることではある。ただ文句を言うつもりはない。人の命よりも優先するべきことなんてないからだ。
という訳で、私も二人に近寄ることにした。介抱をするなら、一人よりも二人の方がいいだろう。
「あ、お客さん、すみません。急に止まってしまって……」
「いいえ、お気になさらず。それより大丈夫です……か?」
倒れていたのは、修道服を着た女性であった。そういう服を着ているということは、彼女はまず間違いなく修道女なのだろう。
そんなことを考えていた私は、その女性の顔を見てひどく驚くことになった。目の前にいる女性の顔には、見覚えがあったからだ。
「お、お姉様……」
「お客さん? ど、どうかされましたか?」
「あ、いえ、なんでもありません……」
行き倒れた修道女の顔は、お姉様にかなり似ていた。
数年前行方不明になったお姉様とそっくりな人物が目の前にいる。その事実に、私はとても混乱するのだった。
幸いなことに、旅路は順調である。このまま行けば、ほぼ予定通りに国を出ることができるだろう。
「記事にはなっていないようね……」
馬車の中で、私は新聞を読んでいた。
私が侯爵家を出てから、既に三日が経っている。私の探索が始まっているなら、何かしらの記事が出てもおかしくはない頃だ。
しかし、新聞には特に私のことは書いていない。少なくとも、まだ記事にはなっていないようではある。
「でも安心することはできないわよね。記事にしていないというだけで探している可能性もある訳だし……」
お父様とお母様の状況は、こちらからはまったくわからない。どのような判断をしたのかわからない以上、私はただ逃げるしかないというのが現状だ。
世間体を気にして、水面下で動き記事などにしない可能性も充分ある。故に、まだまだ油断することはできないだろう。
「あら?」
そこで私は、とあることに気付いた。
馬車が段々と速度を落としているのだ。まだ目的地には程遠いはずであるのに、馬車はその動きを停止させていく。
「まさか……追手が来たのかしら」
とりあえず私は、馬車から出ることにした。何があったとしても、状況を把握するためにはそうせざるを得なかったのだ。
すると私は、すぐに理解することになった。馬車が止まった原因は、下りてすぐに見えてきたのである。
「大丈夫ですか? しっかりしてください」
「うっ……」
私の目の前では、御者が道端に倒れた人に呼びかけていた。
どうやら御者は、人命救助のために馬車を止めたらしい
急いでいる私にとって、それは少々困ることではある。ただ文句を言うつもりはない。人の命よりも優先するべきことなんてないからだ。
という訳で、私も二人に近寄ることにした。介抱をするなら、一人よりも二人の方がいいだろう。
「あ、お客さん、すみません。急に止まってしまって……」
「いいえ、お気になさらず。それより大丈夫です……か?」
倒れていたのは、修道服を着た女性であった。そういう服を着ているということは、彼女はまず間違いなく修道女なのだろう。
そんなことを考えていた私は、その女性の顔を見てひどく驚くことになった。目の前にいる女性の顔には、見覚えがあったからだ。
「お、お姉様……」
「お客さん? ど、どうかされましたか?」
「あ、いえ、なんでもありません……」
行き倒れた修道女の顔は、お姉様にかなり似ていた。
数年前行方不明になったお姉様とそっくりな人物が目の前にいる。その事実に、私はとても混乱するのだった。
4
お気に入りに追加
1,217
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています
朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」
わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。
派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。
そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。
縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。
ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。
最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。
「ディアナ。君は俺が守る」
内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。
婚約者から用済みにされた聖女 〜私を処分するおつもりなら、国から逃げようと思います〜
朝露ココア
恋愛
「覚悟しておけよ。貴様がこの世から消えれば良いだけの話だ」
「薄気味悪い人形が、私と結婚などできると思うな」
侯爵令嬢――エムザラ・エイルは、婚約者の王子から忌み嫌われていた。
彼女は邪悪な力を払う『聖女』の力を持って生まれた。
国にとって重要な存在である聖女のエムザラは、第一王子の婚約者となった。
国に言われるまま、道具のように生きてきたエムザラ。
そのため感情に乏しく、周囲からも婚約者からも疎ましく思われていた。
そして、婚姻を直前に控えて夜――婚約者の王子から送られてきた刺客。
「エムザラ……俺と来い。俺が君を幸せにしてやる」
だが、刺客は命を奪わずに言った。
君を幸せにしてやる……と。
「俺がもう一度、君を笑わせてやる」
聖女を誘拐した暗殺者。
彼の正体は、帝国の皇子で――
ただ一人の少女が心を取り戻すための、小さな恋の話。
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる