上 下
7 / 18

7.勘違いして

しおりを挟む
「ゼルート様……」
「ええ、僕ですよ」

 クラスメイトが突然現れたことに、私は少し動揺していた。
 ただ、すぐに冷静になって思う。早く誤解を解いた方が良いと。彼は多分、私がここから飛び降りようとしているなどと、思っているのだろうか。

「えっと、ゼルード様、私は別にここから飛び降りようとしているとか、そういう訳ではないのですけれど」
「え? ああ、それはわかっています」
「うん?」
「勘違いをさせてしまったようですね。申し訳ありません」

 ゼルート様の言葉に、私は混乱していた。
 こちらの方が勘違いをしていたとは、どういうことだろうか。
 この状況で、「早まってはいけない」と声をかけるということについて、他にどう理解すればいいのかが、私にはわからない。

「僕が言っているのは、ラルーナ嬢が悩んでいることの方です。妹君のことで、悩んでいらっしゃったのでしょう?」
「あ、はい。それはそうですね」
「僕は一応、リメルナ嬢のことをある程度知っています。恐らくあなたは、噂のことについて悩んでいるのでしょうが、それは本人に聞いた方が良いと思いますよ」
「本人に、ですか?」

 ゼルート様がリメルナと関わりがあったなんて、私はまったく知らなかった。
 ただ、別にそこまでの驚きはない。彼女の交友関係というものは、広いからだ。優秀ということもあって、色々な繋がりがあると認識している。
 成績でいっても、ゼルート様は今回リメルナに次ぐ二位だ。そういった所から、関係が広がったのかもしれない。

「ゼルート様は、何かを知っていらっしゃるのですか?」
「ラルーナ嬢が知らないことを知ってはいますね。とはいえ、今回の件の全貌を理解しているという訳ではありません。あくまでも情報から推測しているだけです」
「それを教えていただけないものなのでしょうか?」
「そうしても良いのでしょうが、結局の所正確なことは本人にしかわかりませんからね。憶測であれこれ語りたくはありません。それでは噂を流している人達と変わりません」

 ゼルート様が何かを知っているというなら、それを是非とも教えてもらいたいものだった。
 ただ、彼の態度からは付け入る隙などないことが伝わってくる。暗にリメルナときちんと話をするように、という言葉が伝わってくる。
 それが一番良いことは、私だってわかっているつもりだ。ただ、それを躊躇う気持ちはやはりある。私達は、そういったことを気楽に聞ける関係ではないのだ。

「……わかりました」

 しかしながら私は、自分の躊躇いを切り捨てた。
 前に進むためには、そうするしかない。いつまでも躊躇っていても仕方ないのだ。ここはあの妹の懐に飛び込んでみるべきなのだろう。私は腹を括ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王立学園の特待生

碧桜 汐香
恋愛
兄4人で唯一の末っ子女子として産まれたルリアンヌは、それはそれは溺愛されて育ってきた。 そんなルリアンヌは王立学園の首席特待生。将来の夢は、初の女性宰相。 平民のくせに主席なんて、と陰口を言われるルリアンヌには秘密があって……。

わたくしが代わりに妻となることにしましたの、と、妹に告げられました

四季
恋愛
私には婚約者がいたのだが、婚約者はいつの間にか妹と仲良くなっていたらしい。

婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが

ふじよし
恋愛
 パトリツィアはティリシス王国ラインマイヤー公爵の令嬢だ。  隣国ルセアノ皇国との国交回復を祝う夜会の直前、パトリツィアは第一王子ヘルムート・ビシュケンスに婚約破棄を宣言される。そのかたわらに立つ見知らぬ少女を自らの結婚相手に選んだらしい。  けれど、破棄もなにもパトリツィアとヘルムートの婚約はすでに解消されていた。 ※現在、小説家になろうにも掲載中です

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

親しい友達が、みんな幼なじみみたいな厄介さをしっかり持っていたようです。私の安らげる場所は、あの方の側しかなくなりました

珠宮さくら
恋愛
ヴィリディアン・ダブラルには、厄介な幼なじみがいるのだが、彼女の家族がしばらく寝込むことになった間に目まぐるしい変化が訪れていた。 それによって、ようやく彼女に関わらなくて済むことになりそうになったのだが、面倒な人間は彼女だけではなかったようだ。 それを痛感していくことになったことで、ヴィリディアンは自分がいかに幸せなのかを身を持って知ることになるとは思いもしなかった。

「小賢しい」と離婚された私。国王に娶られ国を救う。

百谷シカ
恋愛
「貴様のような小賢しい女は出て行け!!」 バッケル伯爵リシャルト・ファン・デル・ヘーストは私を叩き出した。 妻である私を。 「あっそう! でも空気税なんて取るべきじゃないわ!!」 そんな事をしたら、領民が死んでしまう。 夫の悪政をなんとかしようと口を出すのが小賢しいなら、小賢しくて結構。 実家のフェルフーフェン伯爵家で英気を養った私は、すぐ宮廷に向かった。 国王陛下に謁見を申し込み、元夫の悪政を訴えるために。 すると…… 「ああ、エーディット! 一目見た時からずっとあなたを愛していた!」 「は、はい?」 「ついに独身に戻ったのだね。ぜひ、僕の妻になってください!!」 そう。 童顔のコルネリウス1世陛下に、求婚されたのだ。 国王陛下は私に夢中。 私は元夫への復讐と、バッケル伯領に暮らす人たちの救済を始めた。 そしてちょっとした一言が、いずれ国を救う事になる…… ======================================== (他「エブリスタ」様に投稿)

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...