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第20話 覚悟していたこと

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「ミルトナ様には、誰か好きな人でもいるのですか?」
「え?」
「いえ、先程の言葉から、今の婚約者の他に、そういう人がいるのかと思ったのです。不快に思ったのならすみません」

 そこでアドナス様は、そのようなことを聞いてきた。
 別に、その質問を不快に思った訳ではない。
 しかし、考えてみれば私に好きな人などいないことに気づいたのだ。

「考えてみれば、好きな人なんていませんね。というよりも、そう思うことを自制しているのかもしれません」
「自制ですか?」
「だって、物心ついた頃には、婚約が決められていたので。そんな状態で、他者に好意を向けようとは思いませんでした。ある意味、覚悟を決めていたのかもしれませんね」
「……そうですか」

 私は物心がついた頃から、ケットラが婚約者に決められていた。
 そのため、他者を好きになろうとは思わなかったのだ。
 思い返してみれば、私は覚悟を決めていたのかもしれない。ケットラと結婚するのだから、そういうことは考えないようにと。
 そう考えると、なんだか悲しくなってきた。私は、あのようなろくでなしのために、自身の思いに蓋をしてきたのだ。そう考えると、とても暗い気持ちになってしまう。

「ミルトナ様は、立派な方ですね」
「え?」
「僕よりも、余程大人だと思います。家のために覚悟を決める。そういうことは、中々できることではないと思います」

 そんな私に、アドナス様はそのようなことを言ってきた。
 その言葉は、嬉しいものだった。そう言ってもらえると、私の苦労も報われる気がする。

「さて、そろそろ戻りましょうか。いつまでもここにいてはいけませんからね」
「ええ、そうしましょう」

 そこでアドナス様は、もう戻るように言ってきた。
 私は、その言葉にゆっくりと頷いた。いつもでも話している訳にはいかないのだ。
 こうして、私達は晩餐会に戻って行くのだった。



◇◇◇



 私は、ゆっくりと目を覚ました。
 三度目の会合は、婚約関係について話していたようだ。
 あの時、私の努力を認めてくれたアドナス様の言葉は、とても嬉しかったものである。

「……でも」

 しかし、結局アドナス様がどうして私に好意を抱いたのかはよくわからなかった。
 もしかしたら、私がわからないだけで、何かがアドナス様を惹きつけたのかもしれないが、それはもうわかりそうにない。

「もう寝よう……」

 そこで私は、もう寝ることにした。
 これ以上考えていても、結論は出ないだろう。早く寝て、明日からに備えた方が賢明である。
 こうして、私は眠りにつくのだった。
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