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私は、エルクル様に協力してもらい、表情を取り戻す訓練を開始していた。
「さて、まずはどうしましょうか?」
「そうですね……何から、始めるべきでしょうか?」
しかし、その最初で躓いていた。
表情を作り上げる特訓。それは、まず何をすればいいのだろうか。
「今までは、何をやっていたのですか?」
「そうですね……例えば、こうやって、指で無理やり表情を作ったりしていました」
「なるほど……それは、確かに有効そうですね」
エルクル様に言われて、私は普段やっていたことをやってみた。
指で、口の端を引っ張って、笑顔を作る。それが、いつもやっていた訓練だ。
しかし、これでできるのはぎこちない笑顔だけである。この不気味な笑顔を作れた所で、あまり意味はないのではないだろうか。
「あっ……」
「どうかしましたか?」
「いえ、その……変な顔を見られたから、恥ずかしくて……」
「ああ、そういうことですか……」
そこで、私は今の自分の顔をエルクル様に見られていることを自覚した。
このような顔を見られるのは、中々恥ずかしいことである。そのため、かなり照れてしまう。
「えっと……その考えは、この際捨ててもらった方がいいと思います」
「え? 捨てる?」
「この訓練をするなら、当然、顔を見なければいけません。だから、変な顔と恥ずかしがっていると、訓練にならないのではないでしょうか?」
「あっ……」
しかし、私はエルクル様の指摘で気づいた。
私達は、表情を作るという訓練をしている。それは、顔を見て、初めでできる訓練なのだ。
それなのに、顔を見られて恥ずかしいなどと思っていれば、訓練などできるはずがない。根本的なことを、私はわかっていなかったのだ。
「すみません。確かに、そうですよね……」
「あ、えっと……落ち込まないでください。あなたの感情は、当然のものだと思います。別に、僕も今気づいたことですから、気づかなかったことに落ち度があるという訳でもありません」
「はい……」
落ち込む私を、エルクル様は励ましてくれた。
しかし、私は元気を出せそうにない。
エルクル様に、自分の変な顔を見られるのは、考えれば考える程嫌だった。あまり、彼にそういう顔は見せたくないと思ってしまうのだ。
「それに、その……僕は、あなたのどんな顔でも好きです」
「え?」
「先程の表情も……失礼かもしれませんが、その可愛いと思ってしまいました。色々な表情を見てみたいと、今でも思っています。これは、惚れている弱みということなのでしょうか?」
しかし、エルクル様のその言葉で、私は少しだけ元気になった。
どんな顔の私でも好き。その直球な言葉は、私の心を軽くしている。
「えっと、わかりました……それなら、その、変な顔をするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「はい……」
とりあえず、私はエルクル様に変な顔を見せるのを許容することにした。
彼が喜んでくれるなら、変な顔を見せてもいい。そのように感じるようになったからだ。
こうして、私達は前提にあった問題を解決するのだった。
「さて、まずはどうしましょうか?」
「そうですね……何から、始めるべきでしょうか?」
しかし、その最初で躓いていた。
表情を作り上げる特訓。それは、まず何をすればいいのだろうか。
「今までは、何をやっていたのですか?」
「そうですね……例えば、こうやって、指で無理やり表情を作ったりしていました」
「なるほど……それは、確かに有効そうですね」
エルクル様に言われて、私は普段やっていたことをやってみた。
指で、口の端を引っ張って、笑顔を作る。それが、いつもやっていた訓練だ。
しかし、これでできるのはぎこちない笑顔だけである。この不気味な笑顔を作れた所で、あまり意味はないのではないだろうか。
「あっ……」
「どうかしましたか?」
「いえ、その……変な顔を見られたから、恥ずかしくて……」
「ああ、そういうことですか……」
そこで、私は今の自分の顔をエルクル様に見られていることを自覚した。
このような顔を見られるのは、中々恥ずかしいことである。そのため、かなり照れてしまう。
「えっと……その考えは、この際捨ててもらった方がいいと思います」
「え? 捨てる?」
「この訓練をするなら、当然、顔を見なければいけません。だから、変な顔と恥ずかしがっていると、訓練にならないのではないでしょうか?」
「あっ……」
しかし、私はエルクル様の指摘で気づいた。
私達は、表情を作るという訓練をしている。それは、顔を見て、初めでできる訓練なのだ。
それなのに、顔を見られて恥ずかしいなどと思っていれば、訓練などできるはずがない。根本的なことを、私はわかっていなかったのだ。
「すみません。確かに、そうですよね……」
「あ、えっと……落ち込まないでください。あなたの感情は、当然のものだと思います。別に、僕も今気づいたことですから、気づかなかったことに落ち度があるという訳でもありません」
「はい……」
落ち込む私を、エルクル様は励ましてくれた。
しかし、私は元気を出せそうにない。
エルクル様に、自分の変な顔を見られるのは、考えれば考える程嫌だった。あまり、彼にそういう顔は見せたくないと思ってしまうのだ。
「それに、その……僕は、あなたのどんな顔でも好きです」
「え?」
「先程の表情も……失礼かもしれませんが、その可愛いと思ってしまいました。色々な表情を見てみたいと、今でも思っています。これは、惚れている弱みということなのでしょうか?」
しかし、エルクル様のその言葉で、私は少しだけ元気になった。
どんな顔の私でも好き。その直球な言葉は、私の心を軽くしている。
「えっと、わかりました……それなら、その、変な顔をするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「はい……」
とりあえず、私はエルクル様に変な顔を見せるのを許容することにした。
彼が喜んでくれるなら、変な顔を見せてもいい。そのように感じるようになったからだ。
こうして、私達は前提にあった問題を解決するのだった。
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