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23.真の平和を

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「なるほど、そのようなことがあったのですね……」
「うむ……」

 ハルメルト様は、私が質問するまでもなくこれまでのいきさつを話してくれた。
 私が休んでいる間に、本当に色々なことがあったらしい。ただそれらの問題は、全て彼が解決してくれたようだ。

「でも驚きました。戻って来たら、聖女に選ばれていましたから」
「それは当然の処置だ。あなた以上に聖女に相応しい者はいない。俺はその才能を評価している。その評価に対して、正当な地位を与えただけだ」

 ハルメルト様は、私に対して淡々とそんなことを言ってくる。
 本当に、彼にとっては当たり前のことなのだろう。それがタイドから伝わってくる。

「そして俺は、あなたにもう一つ地位を与えたいと思っている。ただこちらに関しては、あなたの意思を尊重するつもりだが」
「え? それは一体……」
「俺はあなたに、妻になってもらいたいと思っている」
「なっ……」

 そこで私は、固まることになった。そんなことを言われるとは、まったく思っていなかったからだ。
 王妃というのはつまり、国王の妻ということである。私がそんな地位に就く。それは実に、驚くべき提案だ。
 そのため私は、少し混乱していた。だがすぐに思い至る。とても大事なことがあることを。

「俺はあなたを評価している。それは妻にしたいという面に関しても同じだ。つまり俺は、男としてあなたを求めている。あなた程に強く気高い女性を、俺は他に知らない」
「ハルメルト様、そう言っていただけるのは嬉しいです。でも、私は平民の孤児院の出身です。そんな私が、果たして王妃として認められるでしょうか?」
「その点に関しては問題ない。既に調査済みだ。もっとも、仮に反発されても俺の行動は左程変わらなかっただろうがな」
「これは……?」

 懸念を抱いた私に対して、ハルメルト様は一枚の紙を渡してきた。
 その紙には、驚くべきことが記されている。聖女ハルメルタとルナバート、かつての英雄達から続く家系図だ。

「な、なんですか、これは……?」
「あなたの出自だ」
「私の出自?」
「既に証明は済んでいる。これが鑑定書だ。言っておくが、偽造はしていない」
「私がハルメルタの血を引いている……?」

 ハルメルト様の発言は、すぐに信じられるものではなかった。
 しかし、確かに鑑定書は私とハルメルタの繋がりを記している。偽造がないというなら、そういうことになるのだろう。

「故にあなたが俺の妻になることは、何も問題がないことになる。もちろん言った通り、あなたの意思は尊重するが」
「それは……」

 私は、改めて考えることになった。
 ハルメルト様の妻になる。それは今後の人生を大きく左右する選択だ。
 だがまず思ったことは、ハルメルト様のことである。彼ともに歩んで行きたい。私は、自然とそう思っていた。

「……私は、王族や貴族のことをそんなにわかっていませんが」
「構わないさ」
「それなら、どうかよろしくお願いします」

 私は、ハルメルト様から差し出された手を取った。
 彼のことなら、私は信頼できる。そんな彼とこの国をもっと良くしていきたい。それが私の素直な気持ちなのだ。

「し、失礼します!」
「む……」

 そこで私達は、戸を叩く大きな音と声に少し驚いた。
 顔を見合わせながら、私達は意識を切り替える。聞こえてきた声は、明らかに何かあったという声色だったかだ。

「入れ! 何があった? 前置きはいいから、事態を話せ」
「あ、悪魔が観測されました」
「何?」
「エレイファン男爵が報告してきました。グラムという村で悪魔を発見して、討伐したと。今、死体をこちらに送っているそうです」
「ほう……」

 入ってきた兵士の発言は、とても重大なものだった。
 伝説の存在である悪魔。それは実在して、どうやらこの国を脅かしているらしい。
 恐らく、結界が解かれた間にこの国入ってきたのだろう。それが観測された一体で済むとは、とても思えない。

「すぐに各所に通達しろ。作戦会議を開始すると」
「はっ!」

 ハルメルト様は、すぐに兵士に指示を出した。
 当然のことながら、これからのことは考えなければならない。この国に潜む悪魔を見つけ出し、それを討伐しなければ真の平和は訪れないのだ

「クルミラ、どうやら事後処理はまだまだ続くようだ」
「ええ、そのようですね……」
「力を貸して欲しい。聖女として、俺の妻として」
「もちろんです」

 ハルメルト様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 これからも、厳しい戦いが待っているだろう。しかしきっと大丈夫だ。ハルメルト様となら、私はどんなことでも成し遂げられる気がする。
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