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18.国を守るために(ハルメルト視点)

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「父上、最早あなたは腐り切ってしまっているようですね」
「な、何?」
「あなたの心に、為政者としての心が残っているなら、あるいは違う結末もあったでしょう。しかしあなたは最早、暴君だ。私はこの国を治める一族の一人として、そんなあなたを打ちのめさなければならない」
「ハルメルト、お前、誰に何を言っているのか、理解しているのか!」

 俺の言葉に対して、父上は激昂した。
 だが、そこには威厳がない。ただ怒りに任せただけの言葉は、俺の迷いを断ち切るには充分過ぎるものだった。

「あなたは、すぐにその地位を退くべきです。そうしなければ、こちらも強引な手段に頼らざるを得なくなる」
「この私を退ける力が、お前にあると?」
「ええ、ありますとも。父上は知らないのかもしれませんが、既に私には力があります。父上を支持している者は最早少数なのです」
「なんだと?」

 俺の説明に、父上は訳がわからないというような顔をしていた。
 しかしこれは、事実だ。既に父上を本当に支持している者など、ほぼいないだろう。

 王位が移り変わることは明らかだった。故に多くの者達は、俺やビブーリオといった次の候補者に粉をかけている。
 今回の件によって、そういう者達は本格的に俺達に支持を変えるだろう。アレフィシアの横暴を知ってそうしない者などいないはずだ。余程の愚か者であるなら別だが。

「あなたは反感を買っていた。アレフィシアを聖女にしたことが、そもそもの間違いだ」
「実力もなければ、象徴に慣れる程のカリスマもない。あのアレフィシアの一体何を父上が買ったのやら……」
「ぐぬぬっ……」

 父上とアレフィシアの関係は、姪と伯父の関係を越えている。もしかしたら二人には、俺達の知らない関係性があるのかもしれない。
 しかし、最早そんなことはどうでもいいことである。仮に何があっても、俺達には関係がないことだ。

「潔く退くか、それとも足掻くかはあなたの勝手です。しかしながら、これだけは言っておきます。私もビブーリオも容赦するつもりはないと」
「……弟達も、意見は同じだと思いますよ。俺達はね、父上。これでも国を安定させたいと思っているんだよ。こんな風に混乱させる奴は排除せざるを得ないんだ。それが例え、実の父親だとしても……ね?」

 俺達二人の言葉に、父上は何も答えない。ただ交互に、俺達に視線を向けるだけだ。
 そこで俺は、ビブーリオの表情が少し揺れていることに気付いた。どうやらこいつも、流石に心を痛めているようだ。

「さて、それでは次だ」
「……アレフィシアの元に行くつもりか?」
「ええ、もちろん」
「わかっているのか? あの子は、お前達にとって……」
「それは我々にとって、些細なことです。先程ビブーリオが言った通り、我々の使命はこの国を守ることですから」

 俺は父上に背を向ける。
 これで父上を断ち切ることはできた。しかし、これで終わりという訳ではない。俺達には、もう一人決着をつけなければならない者がいるのだ。
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