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9.くつろげる場所
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図書室で男性の説を一しきり聞いた後、私は王都をゆっくりと歩いていた。
休日は英気を養うためにあるものだ。しかし今の私は、すごく疲れている。
「まあ、それなりに興味深い話ではあったけど……」
男性の話は、それなりに面白いものではあった。
ただあまりにも力説されすぎて、聞いているこちらもすっかりと疲弊してしまったのだ。
だからここは、ちゃんと休める場所に行くべきだ。ゆっくりと休んで、明日からの仕事に備えなければならない。
「お茶でも飲んで、一旦落ち着こうかしら、ね……」
そこで私は、行き先をとある喫茶店に定めていた。
そこに来るのは、随分と久し振りだ。聖女補佐になってからは忙しかったため、あまり来られていなかったのである。
「元気にしているからしらね……」
眼前に見えてきた喫茶店に、私は自然と口角をあげていた。
思った以上に、私はここに来ることを楽しみにしているようだ。その事実に私は、苦笑いをしてしまう。
「いらっしゃいませ……あっ」
そんな喫茶店の店員であるラムカルは、私を見てすぐに大きな声を出した。
それによって、店の中の視線が集まる。流石にそれは、少し恥ずかしい。
「おっとっとっ……ええと、いや久し振り」
「ええ、久し振り、ラムカル」
頬をかき気まずそうにしながら、ラムカルは私に挨拶をしてきた。
それに対して、私も挨拶を返す。実の所それは、いつも通りのやり取りだ。
「ごめんなさいね。最近は中々訪ねられなくて」
「いや、それは別に構わないさ。忙しいのはわかっているし、それに俺だって、一応もう自立している訳だしな」
「まあ、そうよね」
ここで働いているラムカルは、私と同じ孤児院で育った男の子である。
ある時に王都まで来て、縁あってこの喫茶店で働いているのだ。
「といっても、私にとってあなたはいつまでも弟なのよ。それは忘れないで」
「弟か、まあ確かに、俺もクルミラ姉のことは姉みたいに思っているけど……」
「そうそう、だからいつまでも心配ってことなの」
ラムカルは、少々そそっかしい所はあるが、基本的には真面目である。こちらの店長さんからも、よく働くと褒めってもらっているくらいだ。
そのため、あまり心配し過ぎるのは良くないだろう。それは私も、もちろんわかっている。
しかし同じ孤児院で育った、とりわけ私よりも年下の子達のことはいつまで経っても心配だ。姉として、この気持ちは多分ずっと変わらないだろう。
「まあ、そりゃあ俺だって来てもらえるのは嬉しいけどさ」
「そう言ってくれると、私としてもありがたいわね」
「ああ、そうだ。店長もクルミラ姉に会いたいって言ってたぜ?」
「カルリアさんが? あっ……」
「うん?」
ラムカルの言葉で、私は店の奥から手を振ってくれている女性に気付いた。
彼女は、カルリアさんというこの喫茶店の店主である。この王都にいる私の数少ない友人の一人で、私もお世話になっている人だ。
「ふふっ……」
「クルミラ姉? どうかしたのかよ?」
「いいえ、なんでもないわ」
私はとりあえずカルリアさんに手を振り返す。
なんというか、この一瞬だけでもかなり心が軽くなった。やはりここに来て、良かったと思う。
休日は英気を養うためにあるものだ。しかし今の私は、すごく疲れている。
「まあ、それなりに興味深い話ではあったけど……」
男性の話は、それなりに面白いものではあった。
ただあまりにも力説されすぎて、聞いているこちらもすっかりと疲弊してしまったのだ。
だからここは、ちゃんと休める場所に行くべきだ。ゆっくりと休んで、明日からの仕事に備えなければならない。
「お茶でも飲んで、一旦落ち着こうかしら、ね……」
そこで私は、行き先をとある喫茶店に定めていた。
そこに来るのは、随分と久し振りだ。聖女補佐になってからは忙しかったため、あまり来られていなかったのである。
「元気にしているからしらね……」
眼前に見えてきた喫茶店に、私は自然と口角をあげていた。
思った以上に、私はここに来ることを楽しみにしているようだ。その事実に私は、苦笑いをしてしまう。
「いらっしゃいませ……あっ」
そんな喫茶店の店員であるラムカルは、私を見てすぐに大きな声を出した。
それによって、店の中の視線が集まる。流石にそれは、少し恥ずかしい。
「おっとっとっ……ええと、いや久し振り」
「ええ、久し振り、ラムカル」
頬をかき気まずそうにしながら、ラムカルは私に挨拶をしてきた。
それに対して、私も挨拶を返す。実の所それは、いつも通りのやり取りだ。
「ごめんなさいね。最近は中々訪ねられなくて」
「いや、それは別に構わないさ。忙しいのはわかっているし、それに俺だって、一応もう自立している訳だしな」
「まあ、そうよね」
ここで働いているラムカルは、私と同じ孤児院で育った男の子である。
ある時に王都まで来て、縁あってこの喫茶店で働いているのだ。
「といっても、私にとってあなたはいつまでも弟なのよ。それは忘れないで」
「弟か、まあ確かに、俺もクルミラ姉のことは姉みたいに思っているけど……」
「そうそう、だからいつまでも心配ってことなの」
ラムカルは、少々そそっかしい所はあるが、基本的には真面目である。こちらの店長さんからも、よく働くと褒めってもらっているくらいだ。
そのため、あまり心配し過ぎるのは良くないだろう。それは私も、もちろんわかっている。
しかし同じ孤児院で育った、とりわけ私よりも年下の子達のことはいつまで経っても心配だ。姉として、この気持ちは多分ずっと変わらないだろう。
「まあ、そりゃあ俺だって来てもらえるのは嬉しいけどさ」
「そう言ってくれると、私としてもありがたいわね」
「ああ、そうだ。店長もクルミラ姉に会いたいって言ってたぜ?」
「カルリアさんが? あっ……」
「うん?」
ラムカルの言葉で、私は店の奥から手を振ってくれている女性に気付いた。
彼女は、カルリアさんというこの喫茶店の店主である。この王都にいる私の数少ない友人の一人で、私もお世話になっている人だ。
「ふふっ……」
「クルミラ姉? どうかしたのかよ?」
「いいえ、なんでもないわ」
私はとりあえずカルリアさんに手を振り返す。
なんというか、この一瞬だけでもかなり心が軽くなった。やはりここに来て、良かったと思う。
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