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第27話 出て行かずとも

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 私は、お姉様の手を引いて、ファムルド様と王城から逃げるはずだった。
 しかし、その足を一時止めることになっていた。ある事情から、逃げる必要がなくなったのである。

「兄上、これは……」
「この俺が集めた精鋭達で、この王城は制圧させてもらった」

 私達の目の前にいるのは、ファムルド様の兄であるビルグド様だ。
 この国の第二王子である彼は、自身が集めた兵達で、王城を制圧したのである。

「兄上、王城を襲ったということは、あなたもこの生贄を止めようとしたということですか?」
「ああ、そういうことになるな」

 ファムルド様の質問に、ビルグド様は笑みを浮かべながら答えた。その笑顔は、少しファムルド様と似ている。兄弟だから当然なのかもしれないが、その邪悪さまで似ているのは、少し驚きである。
 どうやら、彼はお姉様を助けようとしていたらしい。それ自体は、ありがたいことだった。おかげで、お姉様を連れ出すこともできたので、感謝したいくらいである。

「何故、マーティア嬢を?」
「ふん……」

 だが、少しだけ気になることがあった。それは、何故彼がお姉様を助けようと思ったのかである。
 彼には、凡そお姉様を助ける理由などなかったはずだ。王城を敵に回してまで、お姉様を助ける。そこに至る理由には、大変興味がある。

「簡単なことだ。この俺が生贄など気に入らなかったからだ」
「気に入らなかった?」
「厄災がどのようなものなのかは知らんが、生贄などという遠回しをして、何になるという? それが病であるなら、治す方法を見つける。それが天災であるなら、対策を立てる。それが敵であるなら、叩き潰す。それだけだ」
「なるほど、兄上らしいですね……」

 ビルグド様の考えは、単純なものだった。
 この人は、厄災などに生贄という手段で対抗したくなかったのだ。自らの力で立ち向かう。そのような強固な意志を持つ人だったのである。

「今日からは、この俺が国王になる。故に、お前達が国を抜け出す必要はない」
「ええ、そのようですね……」
「無論、俺は生贄などに頼るつもりはない。その娘には、今まで通りの生活でも遅らせるのだな」

 それだけ言って、ビルグド様はこの場を去って行った。
 色々と言われたが、重要なのは最後だろう。
 お姉様が生贄から解放された。その事実だけあれば、私は満足である。
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