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第14話 嫌な自分

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 私は、お兄様にお姉様のことを相談していた。
 お兄様は、私の説明を聞いて、もし本当なら、お姉様を助けなければならないとすぐに結論を出した。それは、私が思いつきもしなかった結論である。
 私も、お兄様のような結論を出したかった。そういう風に考えられる人間でありたかった。それができなかった自分に、私は嫌悪感を抱いているのだ。

「ミリティア、マーティアを助けるために、知恵を貸してくれるかい?」
「え?」
「こういうことは、二人で考えた方が、絶対にいいだろう? なんとかできる方法を二人で導き出そう」

 そんな私に対して、お兄様はそのように言ってきた。
 恐らく、お兄様は何の疑いも持たず、私がお姉様を助けようとしていると思っているのだ。
 今まで、私はそのような考えを一度も思い浮かべていなかった。だから、お兄様の眩しい瞳が、とても痛い。

「……お兄様、私はお姉様を助けたいなんて、思っていませんでした……」
「え?」
「私がお兄様に相談したのは、この事実が衝撃的で、一人で抱えきれなかったからです。他に理由なんてありません。私は今まで、お姉様を助けようなんて、考えていなかったのです」

 その視線に耐え切れず、私はお兄様に自身の心情を打ち明けていた。
 私が、お兄様に色々と話したのは、ただ自分一人でこの事実を抱えきれないと思ったからだ。
 決して、お姉様を助けることを手伝って欲しいだとか、そういうことではない。己の保身のためだけに、お兄様に打ち明けただけなのである。

「そうか……でも、そんなことは当然だよ」
「当然?」
「僕だって、誰かにそのことを聞かされて、最初にマーティアを助けようなんて思える程、心が強い訳ではないよ。きっと、ミリティアみたいに困惑してしまうと思う」
「そうなのでしょうか……?」
「ああ、当たり前だよ。そもそも、真実なのかとか、色々と悩むに決まっている。だから、別に迷っていた自分を卑下することなんてない」

 私に対して、お兄様は優しい言葉をかけてくれた。
 確かに、困惑している中で、すぐに結論を出すことは難しいことなのかもしれない。

「でも、私はお姉様を助けたいと、今も思っている訳ではないのです」
「今も思っていない?」
「お姉様がいなければ……私は、何度もそのように考えてきました。今も……それは変わっていません。だから、お姉様が生贄になってしまえばいいのにと考える自分がいることを、否定することができないのです」

 しかし、問題の本質はそこではなかった。
 私は、思考した結果、お姉様を助けたいと思えていないのである。
 思考が遅かったことは、仕方ないことかもしれない。だが、その結論が出せないことは、間違っていることだろう。
 私は、自分が嫌な人間であると思っている。お兄様のようになれない自分が、私はどうしようもなく嫌なのだ。
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