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第9話 揺れ動く感情(ファムルド視点)
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僕にとって、目の前にいる少女の感情の変化はとても興味深いものだった。
全てを諦めているような目をしながら、彼女は姉が何故婚約者にならなかったのか、それに興味津々である。
「マーティア嬢は、確か魔法の才能に溢れて、勉学もでき運動神経もいい。正に、完璧な人間でしたね……」
「はい、欠点など存在しない完璧な人だと思います」
「彼女を王家に迎えることは、メリットがあります。普通なら、嬉々として婚約者に選ぶでしょう」
「そうですね……」
僕が、姉について褒め称えると、彼女は少し落ち込んだ。
どうやら、この少女にとって、姉の存在というのは複雑なものであるらしい。
考えてみれば、彼女はずっと優秀な姉と比較され続けてきた。そのことで、先程までのように冷めていたのなら、それはとても納得できる。
そんな彼女の心を動かすのは、姉のことだけだったのだろう。この複雑な少女の中には、姉への愛も憎しみもある。
その入り組んだ心は、中々に面白いものだ。
「彼女にも問題がなく、王家にも問題はなかった。ということは、それ以外に問題があったと考えるべきでしょう」
「それ以外? そんなことがあるのでしょうか?」
「ええ、考慮に入れるべき事柄があります」
面白いものを見せてもらったお礼に、僕は彼女にとあることを伝えることにした。
何故、彼女の姉が僕の婚約者に選ばれなかったのか。そのことについて、僕はある予測を立てていた。それを彼女に伝えるとしよう。
しかし、まさか、この予測を使う時が来るとは思っていなかった。彼女の姉のことなど、正直道でもよかった。自分には関係ないと、何が起ころうとも気にしないように決めていたのだ。
それを話すことになったのは、目の前の少女に、僕が興味を持ってしまったからである。僕自身も、ここまで感情に従って動くのは久し振りだ。
「この国……正確には、この地方ですかね? ここには、古くからある伝説が伝わっているのです」
「伝説?」
「ええ、人々を脅かす厄災が訪れる。そのように言い伝えられているのです」
僕の言葉に、彼女は目を丸めた。
それは当然だろう。このような突拍子のないことを言われて、そういう反応になるのは当たり前だ。
「その厄災を封じ込めるためには、生贄が必要である。そう言われているのです」
「生贄……」
「その生贄には、魔力が高い者が選ばれるそうです。その高い魔力が、厄災を封じ込めることができると考えられているようですね」
「それは……」
話を続けると、彼女は冷や汗をかいていた。
どうやら、だんだんと理解してきたようだ。
「まさか……その生贄が、お姉様だとでもいうのですか?」
「その可能性がないと言い切れますか?」
「ただの伝承でしょう? それが、今も続いているなんて……」
「信じられませんか?」
僕の質問に、彼女は答えなかった。
恐らく、答えが見つかっていないのだろう。その迷いに満ちた顔を見ていると、よくわかる。
そんな揺れる彼女の感情に、僕はまたも笑みを浮かべるのだった。
全てを諦めているような目をしながら、彼女は姉が何故婚約者にならなかったのか、それに興味津々である。
「マーティア嬢は、確か魔法の才能に溢れて、勉学もでき運動神経もいい。正に、完璧な人間でしたね……」
「はい、欠点など存在しない完璧な人だと思います」
「彼女を王家に迎えることは、メリットがあります。普通なら、嬉々として婚約者に選ぶでしょう」
「そうですね……」
僕が、姉について褒め称えると、彼女は少し落ち込んだ。
どうやら、この少女にとって、姉の存在というのは複雑なものであるらしい。
考えてみれば、彼女はずっと優秀な姉と比較され続けてきた。そのことで、先程までのように冷めていたのなら、それはとても納得できる。
そんな彼女の心を動かすのは、姉のことだけだったのだろう。この複雑な少女の中には、姉への愛も憎しみもある。
その入り組んだ心は、中々に面白いものだ。
「彼女にも問題がなく、王家にも問題はなかった。ということは、それ以外に問題があったと考えるべきでしょう」
「それ以外? そんなことがあるのでしょうか?」
「ええ、考慮に入れるべき事柄があります」
面白いものを見せてもらったお礼に、僕は彼女にとあることを伝えることにした。
何故、彼女の姉が僕の婚約者に選ばれなかったのか。そのことについて、僕はある予測を立てていた。それを彼女に伝えるとしよう。
しかし、まさか、この予測を使う時が来るとは思っていなかった。彼女の姉のことなど、正直道でもよかった。自分には関係ないと、何が起ころうとも気にしないように決めていたのだ。
それを話すことになったのは、目の前の少女に、僕が興味を持ってしまったからである。僕自身も、ここまで感情に従って動くのは久し振りだ。
「この国……正確には、この地方ですかね? ここには、古くからある伝説が伝わっているのです」
「伝説?」
「ええ、人々を脅かす厄災が訪れる。そのように言い伝えられているのです」
僕の言葉に、彼女は目を丸めた。
それは当然だろう。このような突拍子のないことを言われて、そういう反応になるのは当たり前だ。
「その厄災を封じ込めるためには、生贄が必要である。そう言われているのです」
「生贄……」
「その生贄には、魔力が高い者が選ばれるそうです。その高い魔力が、厄災を封じ込めることができると考えられているようですね」
「それは……」
話を続けると、彼女は冷や汗をかいていた。
どうやら、だんだんと理解してきたようだ。
「まさか……その生贄が、お姉様だとでもいうのですか?」
「その可能性がないと言い切れますか?」
「ただの伝承でしょう? それが、今も続いているなんて……」
「信じられませんか?」
僕の質問に、彼女は答えなかった。
恐らく、答えが見つかっていないのだろう。その迷いに満ちた顔を見ていると、よくわかる。
そんな揺れる彼女の感情に、僕はまたも笑みを浮かべるのだった。
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