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第4話 仮面をつけた王子

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 お父様から話を受けて数日後、私は王城まで来ていた。
 客室に通されて、今はとある人物を待っている。
 その人物とは、当然私の婚約者となるファムルド様だ。お父様に言われていた通り、彼と会うことになったのである。

「失礼します」
「は、はい……」

 しばらく待ってから、部屋の戸を叩く音と声が聞こえてきた。
 当たり前のことだが、それはファムルド様の声だ。
 ゆっくりと戸が開き、見たことがある顔が入って来る。この国の第三王子であるファムルド様だ。

「お待たせしてしまいましたね……」
「あ、いえ……」

 ファムルド様とは、何度か会ったことはある。
 だが、そこまで話したことはない。挨拶をしたくらいで、短い会話しかしていないはずである。
 もしかしたら、彼は私の顔すら覚えていないのではないだろうか。お姉様という絶対的な存在が隣いる以上、私という人間はとても影が薄い。だから、ファムルド様はほぼ初対面のようなものである。

「久し振りですね、ミリティア嬢……お元気そうで何よりです」
「あ、はい……お久し振りです、ファムルド殿下」

 相手が王子であるため、少し緊張している私に対して、ファムルド様は冷静だった。
 特に何も反応することもなく、笑顔で話しかけてくるだけである。
 その笑顔は、恐らく作り笑いだろう。なんとなく、そんな感じがするのだ。

 私という人間は、これまで人の偽りに何度も触れてきた。
 これまで関わってきた人間は、そのほとんどが仮面を被っている。
 優秀な姉に対する私への評価は、基本的に悪い。しかし、誰もそれを表面には出そうとしなかった。作り笑いという仮面を被って、私を見下す視線を隠していたのだ。

 その作り笑いと、目の前にいるファムルド様の笑顔は似ている。
 自らの本心を隠す仮面を、彼も被っているのだ。

 最も、彼の場合は私を見下すとか、そういう類のものは感じられない。
 どちらかというと、彼は私に興味を持っていないから、偽りの笑顔を向けてくるように思える。

 彼が何を考えているか、私には大体理解できた。
 恐らく、彼は自身の婚約者に対する興味がないのだろう。誰かが勝手に決めた婚約者。その人物に興味を持つ必要がない。そのように考えている気がする。

 私がここまで彼のことを理解できるのは、私も同じ考えだったからだ。
 正直、私もファムルド様にそれ程興味はない。親に言われたから、婚約する。ただ、それだけの存在である。

 例え相手が王子だろうと、それは変わらない。名誉なことかもしれないが、別に私は誰でも変わらないと思っている。
 お姉様の方が適正だと騒いだし、何故私が王子の婚約者に選ばれたのかは気になるが、彼個人に興味はない。

 もちろん、王子であるため、少し緊張するし、煩わしいとは思っている。だが、それは彼個人に対しての感情ではなく、相手が王子だからというだけである。

 そんなことを考えながら、私は王子と対面したのだった。
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