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第十一章
『緑陰の匂ふ』
しおりを挟む薔薇ひらき吐息なまめき立夏の夜
夏立ちて宙うく鷗と船遊び
あざやかに目覚むるばかり若楓
若楓なまめき帯びた蹲踞に
朝の駅向かう姿に目白鳴く
ペアめじろ花壇の蜜を吸ひ去りぬ
丘を越え見えて音なき麦嵐
麦嵐熟れた香は夜をおもわせり
卯月波きらと銀鱗きらめけり
一両の電車おどかす卯月波
まだ慣れぬ学生服や海芋揺る
溝浚ひ労わる海芋剪り帰る
一番子もたげた嘴は忙しく
外出の背に燕の子あいさつす
悪縁は切れず根切のきりはなし
明日のなき運命を知りぬ根切虫
愛鳥日スラムの子にも笑みのあり
里の寺こだます声や愛鳥日
大南風つぶれた蛙が道にをり
胸の内ひそかに大南風へ解き放つ
あやめほど目立たぬように著莪の花
逝く者と夢のひととき明易し
明易し渡月橋ゆく瀬の光
夏野ゆく饐ゆる匂いの愛おしさ
花に蝶追うて夏野の袖かろし
蘆影の亀の子撫でて戯れる
縁日の銭亀を売る影もなし
無為の生いたづらに過ぎ竹の散る
竹の葉散る老兵はただ去るを知る
夏掛をはみ出た足に蝶の舞う
そこここで夏掛干さる詠めとこそ
小満の朝夕の配達す音
小満や鈴懸の夜に涵れり
単帯解き白き手の細き指
夏服の白さ薔薇色ひきたてて
北の国から訃報あり青大将
青大将きらわれ役をものとせず
涼やかな一重瞼に若葉風
欝然と宵あさき途に若葉風
店舗すぎ走り茶の香に振り向けり
走り茶を淹れて亡き父母幽かなり
箱釣や救いはあるか紅鱗
箱釣りやうしろの闇へ弱き捨て
竹の皮むけて苦みをひとつ知り
パナマ帽おでこ光りて愛らしき
暑気中り白パナマ帽うす汚れ
痩せた肩いたわるように麻暖簾
麻暖簾われの背中で羽となりぬ
豆飯や食わず嫌い浮かぬ顔
豆飯や親子並んで支度せり
娼家の灯ちらりちらりと夏柳
古町の女に逢ひたし夏柳
王といふ牡丹を切りて瓶にさす
崩れ散る牡丹や己が矜持かな
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