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第四章
『糜爛』
しおりを挟むあがきゆく落暉に染まる青き踏む
泣かすこと知りつつ目とじ青き踏む
春筍の林をゆけば碧(あお)き宙(そら)
春筍や顔をひきしめ探すひと
疫の間にしれと企み憲法記念日
憲法記念日えやみ戦争まっただなか
残る鴨はぐれいつまで此処にいる
失った浪漫をさがす春の暮
一抹の愁いを誘ふ春の暮
美しき髪も饐えたる立夏なり
風は荒れ雨ふりつけて立夏くる
また一升呑んだくれては五月雨
新緑の翳さわさわと艶めかし
新緑や苔食む影の川面染む
高みより水木の花の翳おちて
白き水木の花に憤りし夜
不条理な嫌悪の的や蛇の衣
しづけさや蛇の衣ゆれ濃き日蔭
薫風や花の名しらぬ散歩道
薫風にダンスの花と紋白蝶
なつかしき赤いハサード巴里の夏
夏は来し、光、雲、風、マスクあり
つややかに濡れてつつめる蔦若葉
逃げ出した激しき恋よ蔦若葉
﨟(ろう)たけてひらりひらりと夏の蝶
夏の蝶さそふ手練れに近づかず
錆色に散りて残れり虞美人草
憂き色の虞美人草のなびく朝
夏兆す窓に除虫のケースゆれ
デコルテの白さが眩し夏兆す
走り茶に鉄瓶の湯をたぎらせり
走り茶を淹れ亡き父母の幽かなり
たそがれのながさよ卯月曇りなり
卯月曇まぎれし憂きに灯をともす
飼い主に獲物吐き出す鵜の哀し
野良の鵜の昼なお暗き森の声
子を率い睦む夫婦(めおと)の通し鴨
機を逃し待つもの逃し通し鴨
打ち水に好みの鼻緒と日傘あり
女気を絶てぬ日傘よ色ふかし
鏡面の空くだき跳ぶ虹鱒や
五月雨て虹鱒あとを洗い消す
キャベツの間てふかぎりなく雲白く
甘藍の太き珠ある籠に雨
夏みかん若き野望は剥き出さる
初めての少女(おとめ)の投げし夏蜜柑
小満や仄白き花雨に折れ
小満の湿り腐乱の美醜あり
麦秋や言葉の意味を噛みしめよ
表面(おもてづら)だけで「知ったか」麦の秋
淡き人の體臭に似て麦の秋
麦秋や遠くの杜の秀(ほ)は黒し
あざやかな絶頂へいくあおねさん
濃き茂りゆき滴りの出づ青嶺
星たちが空から降りて胡瓜咲く
蔓のばし胡瓜の花よどこで咲く
小旋風(こつむじ)の消え黄昏の長き初夏
溌溂と風に踊りし初夏の蝶
いたづらな子らの素足の跡の床
水を撒く足元に蝶ひらひらと
月のなき空で鳴き呼ぶ時鳥
ほととぎす電話待つ身の夜は月
走り梅雨にごる空へと拳突く
風にのり水の匂ひの走り梅雨
黒南風や人を嫌ひてひきこもる
〈2021夏〉
南風(みなみ)ふく重暗き雲なほ去らず
投扇のごと滑稽な吾の生命(いのち)
白扇や我をさす者ゆるすまじ
餌づけされ太りゆるゆる通し鴨
通し鴨おのが居場所に執着し
気の抜けたラムネの甘さ終わる恋
初めてのラムネの香する長きキス
草の根を歩き廻れる蟻肥えず
夜の蟻しずかに描く孤をめぐる
若葉雨泣いてもいいよ短い夜
なに拗ね曲がる芭蕉の若葉雨
夕顔の仄かに匂ふ洗ひ髪
髪洗ふ盥の月をかき乱し
神鳴りて芒種の歌や途切れたり
のらの恋いまや芒種の語り草
提燈か蛍袋や梅雨闇に
暗雲に蛍袋や湿る恋
くずれゆく桜桃の実にくちづけす
もてあます夜にさくらんぼつまむ指
朝帰り淫らな湿り梅雨曇
レース場(ば)のはずれ券濡る梅雨曇
焔に耐え楚々とたくまし夾竹桃
夾竹桃ほこり乾きに喘ぐ犬
炎帝の渇きも癒す緋鯉かな
しづかなり緋鯉の鱗の夕焼空
生きるため食い食われて子蟷螂
子蟷螂弄ばるる風前に
ナポレオン呑み玉葱の歌うたう
玉葱にベッカムヘアをおもい出し
まさぐりて匂い酢っぱし五月闇
古鏡の光の水面の五月闇
薄命の大水青や艶やかに
花栗や抱へし脚をおもひけり
しっとりと夜に堕ち匂ふ栗の花
病み逝つた友の描く絵よ早苗月
誰がために空は泣くのか早苗月
水無月や汗ばむ首に口づけし
水無月や何を祓ほうこの夏越し
立罩る暗き濕りに今年竹
窓下の若竹やさし書の疲れ
旅先の眠り車窓の明早し
輾轉と反則の夜の明易し
やりきれぬ言葉は出さず集汁
甘酒をほしがる児(こ)へと集汁
蛇の衣どこぞに白き炎の舌
しづけさや蛇の衣ゆれ濃き日蔭
不条理な嫌悪の的や蛇の衣
ピンサロのおしぼり饐えた山となり
おしぼりでシノギにならぬ雲暗し
寝乱れた白き裸体や夏至の朝
夏至の日のインプラントの微笑(えみ)やらし
父の日を忘れられた背照らす夏至
梅雨冷の唇とかす硬直を
梅雨冷や鉢の金魚も眠りをり
風にゆれやごや草の穂すがりつく
醜さを脱ぎ蜻蛉の子かがやけり
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夕立に跡形なく消ゆ蝉の穴
草も木も踊りだしたる青梅雨や
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