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8.グラスのワインは、まるで俺の心境のように揺れていた……
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ラオンは、片手にワイングラスを持ったまま、カウンターに軽く頬杖をついて俺を見ていた。俺の記憶の中よりも、ほんのちょっと大人びた顔で。
息をするのさえ、一瞬忘れちまいそうになった。
「ずっと、ソモルに会いに来たかったんだよ。だって、約束したから」
俺は、完全に射抜かれた。
好きな娘にこんな事云われて、舞い上がるなって方が無理だ。
顔が、すげぇ熱い。耳たぶまで熱い。店の照明が仄灯りで、だいぶ救われた。
おいラオン! あんまり俺を喜ばせる事云うなよ!
そんな事云われたら俺、期待しちゃうじゃん! 完全、片想いのつもりだったから……。
お前が深い意味もなく云ったとしても、俺、単純だから期待しちゃうんだよ。
……そんなっ、そんな可愛い顔で俺を見るな!
チクショー! 益々体が熱くなる。
ラオンは、ワインをまた一口呑んで、ふふっと笑った。
俺も、すげぇ会いたかった。
その一言が、照れ臭くて素直に口にできないのがマジで悔しい。自分の性分が、無性に憎たらしくなる。何か、気のきいた事でも云えりゃいいのに……。
「ソモル、声低くなったね」
ラオンが何気ない感じで云った。
「まあ、そりゃあな……」
俺だって、一応色々成長してるわけで……。
「背も伸びた」
「そりゃ、お互い様だろ」
俺もラオンも、一年半の間に成長した。お互い、そういう年頃だから。
「それに、逞しくなったね」
「ラオンだって……」
俺は、途中で言葉を呑み込んだ。
ラオンだって、前より綺麗になった。
そんな事、恥ずかしくって云えねえ。
俺は、お前みたいに素直でも純粋でもねぇから。ほんのちょっと下心もあるせいで、本音とか口に出せねえ。
俺とラオンの年の差はふたつ。
ラオンは今、13歳。俺よりちょっと年下。けどこのくらいの年頃って、女の子の方がほんの少し成長が早いらしい。そういうバランス的には、俺たちって意外とつり合ってるのかもなんて思うと、ちょっと嬉しくなる。俺って、やっぱ単純だ。
何だ、俺。全身に変な汗掻いちゃってるし。意識し過ぎて、頭ん中おかしな感じにふわふわなっちまってる。
もう一度会えた事が、ほんと堪らなく嬉しい。
正直に今の気持ちとか云えたら、どんだけいいだろう。俺、なんで不器用なのかな。
照れ臭いから? あんまり浮かれた事云って、好きだって気持ちバレるのが怖いから?
だってラオンにとって、俺はあくまで『一番大切な友達』だから。
俺とラオンの気持ちは、微妙な処で交差して、そしてすれ違ってる。
だから、俺はいつも臆病になる。どんだけ強がってても、怖くなるんだ。
ラオンは出会ったあの頃から、純粋で無邪気だった。
俺も今よりずっとガキだったから、お互いそれでも良かった。
初めてラオンに『一番大切な友達』だって云われた時も、気恥ずかしかったけどスゲェ嬉しかった。
けど今は、その一言が俺の内側を酷く落ち着かなくさせる。
一方通行なんだって、思い知らされるから。
ラオンは俺の隣のカウンター席で、グラスの中の赤ワインを弄ぶように揺らしていた。
「明日は早起きして、色んな処に連れてってね」
そう云って、にっこりと微笑む。
…………。
……ん?
ちょっと待て。
そういえばラオン、今夜何処で過ごすつもりなんだ?
…………。
俺の思考が、再びショートした。
この状況って、あの時と一緒じゃん……。俺とラオンが初めて出会った、あの日の夜と。
あの夜ラオンは、俺が一人で暮らす小屋で一緒に一晩を過ごした。
たった二人きり、ひとつ屋根の下で。
けど、ちょっと待て。あん時と今じゃ、てんで違う。
俺はあん時13歳、ラオンも11歳。
二人共ガキだったし、何も考えてなかったし。
けど、今の俺はもうすぐ15歳。ラオンも、13歳。
俺たちはすでに、微妙な年頃に突入してる。二人共、完全にガキだったあの頃とは違う。
特に、というか……俺の方が……。
ひとつ屋根の下で、二人きりで夜を過ごすって……。
しかも俺は、ラオンの事が……好きなんだぜ……?
何かいけない下心とか、そういうわけじゃないけど、俺、心の準備が……。
ラオンは、はしゃぐように指先でワイングラスを揺らしていた。真っ赤なワインが、まるで輪を描くように波打っている。
あの時と同じだ。
こいつは、何にも考えてない。
動揺してんのは、いつも俺だけ。まるでグラスの中のワインみたいに、俺はいつもラオンの指先で転がされてる。
……俺、また眠れねえよ……。
to be continue
息をするのさえ、一瞬忘れちまいそうになった。
「ずっと、ソモルに会いに来たかったんだよ。だって、約束したから」
俺は、完全に射抜かれた。
好きな娘にこんな事云われて、舞い上がるなって方が無理だ。
顔が、すげぇ熱い。耳たぶまで熱い。店の照明が仄灯りで、だいぶ救われた。
おいラオン! あんまり俺を喜ばせる事云うなよ!
そんな事云われたら俺、期待しちゃうじゃん! 完全、片想いのつもりだったから……。
お前が深い意味もなく云ったとしても、俺、単純だから期待しちゃうんだよ。
……そんなっ、そんな可愛い顔で俺を見るな!
チクショー! 益々体が熱くなる。
ラオンは、ワインをまた一口呑んで、ふふっと笑った。
俺も、すげぇ会いたかった。
その一言が、照れ臭くて素直に口にできないのがマジで悔しい。自分の性分が、無性に憎たらしくなる。何か、気のきいた事でも云えりゃいいのに……。
「ソモル、声低くなったね」
ラオンが何気ない感じで云った。
「まあ、そりゃあな……」
俺だって、一応色々成長してるわけで……。
「背も伸びた」
「そりゃ、お互い様だろ」
俺もラオンも、一年半の間に成長した。お互い、そういう年頃だから。
「それに、逞しくなったね」
「ラオンだって……」
俺は、途中で言葉を呑み込んだ。
ラオンだって、前より綺麗になった。
そんな事、恥ずかしくって云えねえ。
俺は、お前みたいに素直でも純粋でもねぇから。ほんのちょっと下心もあるせいで、本音とか口に出せねえ。
俺とラオンの年の差はふたつ。
ラオンは今、13歳。俺よりちょっと年下。けどこのくらいの年頃って、女の子の方がほんの少し成長が早いらしい。そういうバランス的には、俺たちって意外とつり合ってるのかもなんて思うと、ちょっと嬉しくなる。俺って、やっぱ単純だ。
何だ、俺。全身に変な汗掻いちゃってるし。意識し過ぎて、頭ん中おかしな感じにふわふわなっちまってる。
もう一度会えた事が、ほんと堪らなく嬉しい。
正直に今の気持ちとか云えたら、どんだけいいだろう。俺、なんで不器用なのかな。
照れ臭いから? あんまり浮かれた事云って、好きだって気持ちバレるのが怖いから?
だってラオンにとって、俺はあくまで『一番大切な友達』だから。
俺とラオンの気持ちは、微妙な処で交差して、そしてすれ違ってる。
だから、俺はいつも臆病になる。どんだけ強がってても、怖くなるんだ。
ラオンは出会ったあの頃から、純粋で無邪気だった。
俺も今よりずっとガキだったから、お互いそれでも良かった。
初めてラオンに『一番大切な友達』だって云われた時も、気恥ずかしかったけどスゲェ嬉しかった。
けど今は、その一言が俺の内側を酷く落ち着かなくさせる。
一方通行なんだって、思い知らされるから。
ラオンは俺の隣のカウンター席で、グラスの中の赤ワインを弄ぶように揺らしていた。
「明日は早起きして、色んな処に連れてってね」
そう云って、にっこりと微笑む。
…………。
……ん?
ちょっと待て。
そういえばラオン、今夜何処で過ごすつもりなんだ?
…………。
俺の思考が、再びショートした。
この状況って、あの時と一緒じゃん……。俺とラオンが初めて出会った、あの日の夜と。
あの夜ラオンは、俺が一人で暮らす小屋で一緒に一晩を過ごした。
たった二人きり、ひとつ屋根の下で。
けど、ちょっと待て。あん時と今じゃ、てんで違う。
俺はあん時13歳、ラオンも11歳。
二人共ガキだったし、何も考えてなかったし。
けど、今の俺はもうすぐ15歳。ラオンも、13歳。
俺たちはすでに、微妙な年頃に突入してる。二人共、完全にガキだったあの頃とは違う。
特に、というか……俺の方が……。
ひとつ屋根の下で、二人きりで夜を過ごすって……。
しかも俺は、ラオンの事が……好きなんだぜ……?
何かいけない下心とか、そういうわけじゃないけど、俺、心の準備が……。
ラオンは、はしゃぐように指先でワイングラスを揺らしていた。真っ赤なワインが、まるで輪を描くように波打っている。
あの時と同じだ。
こいつは、何にも考えてない。
動揺してんのは、いつも俺だけ。まるでグラスの中のワインみたいに、俺はいつもラオンの指先で転がされてる。
……俺、また眠れねえよ……。
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