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7.LOVE……再会

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 俺の思考は、まるでブレーカーが落ちたみたいに、数秒間完全に停止していた。
 俺の恋患いが重度に達した、幻覚じゃ……ねぇよな。

 俺の目の前には、ラオンが居た。

 ワインレッドの長い髪を後ろに束ねて、大きな翡翠の綺麗な眼で、俺の事を見ている。


「……あ」


 俺はようやく、そんな意味のない単語を一言だけ洩らした。
 たった今ミルクを呑んだばっかなのに、急激に喉が渇いていた。唾を呑み込もうにも、喉が張り付いて上手く呑み込めない。

 ラオンはそんな俺を見て、ちょっと首をかしげ気味にしながら、にっこりと笑った。


 うわっ、可愛いっ……!
 マジだ、マジで、ラオンが居るっ!

 ようやく覚えたその実感に、俺の心臓がどんどん激しく高鳴っていく。速度を上げた血流に、俺の体が熱を帯びた。


「な、何だ、どうして、ここに?」

 俺の口から、つっけんどんな言葉が飛び出てくる。

 俺の馬鹿っ! 何てぶっきらぼうな云い方してんだよ!
 もっと優しく云えよ、優しくさあっ!

 ラオンは、そんな俺の動揺も物云いも全く気にしてない様子で、

「ソモルに、会いに来ちゃった」

 俺を大きな眼で真っ直ぐに見詰めながら云った。

 きっと、俺の喜ぶような深い意味はない。けどその一言で、俺は完全にやられてしまった。


 やっべぇ~っ!


 一年半越しの、俺とラオンの再会。
 俺たちくらいの年頃で、一年半のタイムラグはでかい。
 それを今、俺はまざまざと実感した。

 出会った頃のラオンは、完全に『子供』だった。俺もだけど。
 けど再会したラオンは、しっかり女の子に成長していた。

 ラオンは、あの頃からすげぇ可愛いかった。
 今目の前に居るラオンは、相変わらず半端なく可愛い。けどそれは、可愛いの部類があの頃とは違う。


 ……女の子って、一年半でこんなに成長するんだな……。


 カウンターの俺の隣の席に、ラオンはちょこんと座って居た。
 背が少し伸びていた。けど、小柄なのは変わらない。華奢なのも。
 だけど、細いだけだった腕は、何というか、きちんと女の子の腕になっていて……。


 一年半前に出会った、あの日と同じ服装。
 ダボダボだった服も、成長した分ぴったりとして、体の形が微妙に判る。少し、柔らかみを帯びた線……。


 ……成長したな。って、何処見てんだ、俺はっ!


 俺は、赤くなった顔を誤魔化す為にカウンターの正面に向き直ると、頭を冷やすべく残りのミルクを一気に呑んだ。のぼせ気味の思考が、僅かにヒートダウンした。

 腹の底からふーっと息を吐き出して、もう一度ラオンの方に向き直る。

 頼む、煩悩! 少しの間だけ静かにしててくれ!


「……もしかして、またこっそり黙って、城抜け出して来たのか?」

 俺は、必死に平常をよそおって訊ねる。
 ラオンの素性は、巨大惑星ジュピターの姫。そう簡単に、マーズの一般庶民である俺のとこなんかに遊びに来れる身分じゃない。以前に出会った時も、ラオンはこっそり城を抜け出して来た。
 誰にも見つからないように、宇宙貨物船に忍び込むのもお手のもので、一年半前に出会った時も、そうやってマーズに辿り着いたらしい。
 今回も多分、同じような方法で来たんだろうな。


「うん。けど、今度もちゃんと手紙置いてきたから大丈夫」 

 そんな事で、城の人間が納得してくれるわけがない。現に前の時だって、手紙を残してきたにも関わらず大捜査網かけられてたし……。
 俺は指名手配された上、警官隊やら姫様捜索に繰り出してきたジイやたちご一行に散々追い回された。繊細な奴ならトラウマになりかねないだろう。
 同じような目に合わされるのは、さすがに遠慮したい。

「それに、明後日には父上と母上もマーズに来られる筈だし。僕だけちょっと先に来ちゃったんだ」

 相変わらずラオンは、姫のくせに一人称は『僕』だった。まあそこも、可愛いポイントなんだけど。


「マーズで、何かあんのか?」

「うん、明後日あさってはマーズ王の生誕日だよ。ソモル、知らなかった?」


 えっ?
 云われてみれば、そうだったような気がする。俺、暦とかてんでうといから。

「マーズ王城での祝賀会にお呼ばれしててね、僕も出席するの」

 いつの間に頼んだのか、ラオンの前にマスターが赤ワインを置いた。
 ジュピター人は、子供でも酒を嗜むのは普通らしい。体質的にアルコールに強いのか、どんだけ呑んでもほとんど酔わないらしい。しかも、すげぇ辛口を好む。

 ラオンは早速ワインを一口呑むと、満足そうに上機嫌な笑顔を見せた。そんなちょっとした表情にも、俺の心臓はいちいち跳ね上がってしまう。

 ……また、喉が渇いてきた。もう一杯、ミルク頼もうかな……。

 頭がだいぶ、のぼせている。まだ思考が、ほんの少しおぼつかない。ワイン呑んでるラオンより、俺の方がよっぽど酔っちまってる感じ。

 無理もねぇよな。だってさ、俺の隣に、ラオンが居るんだぜ。
 どうにかなっちまいそうに会いたかった、ラオンが。

 手を伸ばせば、普通に触れられる程すぐ傍に。

 ……肩に触るのも、今の俺のバクバク度合いじゃ無理なんだけど……。

 まだ俺、顔赤いのかな……。


「だから明日は、丸々ソモルと一緒に遊べるよ」

「えっ」


 ラオンの言葉に、俺の心臓と気持ちが同時に跳ね上がった。





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