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 話がある、と言われて会場の外を出て。
 なぜかリサリスティは、ロンディニア公爵家の馬車に揺られていた。

(ど、どどどどういうことなの? わたくしアルヴァトラン様と一緒に馬車に乗って──っ!?!?)

 心の中で絶叫。
 なにせ初恋の相手なのだ。
 リサリスティの心臓はドキドキ……いや形容するとすれば『ド』と『カ』で、ドカドカとうるさかった。顔だってかなり赤いだろうと、リサリスティは思う。

「リサ」
「はひっ!?」

 見上げたら、またもやアルヴァトランの顔が急接近している。

「リサは、……好きな男がいるのか?」

 真剣な、声。
 深緑の瞳は強い感情を宿して苛烈に輝いている。まるで、何かに焦がれているような、そんな雰囲気。仏頂面のアルヴァトランにそんな顔をされたら、どんな貴族令嬢でも一瞬で恋に落ちてしまうだろう。

(わた、わたくしは……っ)

 ましてリサリスティの初恋はアルヴァトランなのだ。
 もう顔から火が出そうなほど真っ赤になって、目はぐるぐるしている。アルヴァトランが両手を馬車の壁についているから、リサリスティはこれ以上後ろにさがれない。
 
「どうなんだ?」
「い、いま……す」
「それは……リサの近くにいる男か?」
「はい……」

(はいそうですというか目の前にいるのよぉ!!)

 心の中では絶叫。
 顔は真っ赤。
 しおらしく口をつぐんでいれば、アルヴァトランはリサリスティから少し距離を取った。アルヴァトランは口もとに手を当て、小さく「やっぱり相手は兄貴サフィールか……」と愚痴る。

「な、なにか仰いましたか?」
「いいや」

(すっごく小さかったけれど、なんだかとんでもなくお怒りの雰囲気を感じたような気がするのだけれど……まあ、アルヴァトラン様のお考えをわたくしのような女が推しはかろうというのも失礼よね)

 そんなことを考えていると、アルヴァトランがじっとこちらを見つめていることに気付いた。

「どうかされまして?」
「恋に強引な男は嫌いか?」
「へ?」

 素っ頓狂な声があがる。
 伯爵令嬢としてあるまじき失態だけれど、それを言っている場合ではない。

「そ、それは……まあ、女性はリードされたい願望がありますから、少しくらい強引なほうがいいと思いますわ……?」
「リサもそう思うか?」
「ええ、ああ……はい」

 少し安心したように頬を綻ばせるアルヴァトラン。
 何だかよく分からなかったが、こんな風に優しく笑う姿もレアなので、心のアルバムに保存するべく彼の姿を激写する。

(ああ……あの完璧な口角のあがりかたっ。わたくしみたいな一介の伯爵令嬢が、この至近距離で拝むことが出来るなんて……!!)

 わが一生に悔いなし。

「リサ」

 そう呼ばれて、振り返った先には──
 
(え……?)

 目と鼻の先に、アルヴァトランの顔があって。
 唇が、重なっていた。

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