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AfterStory:冬のお泊まり

あ、起こしちゃいましたか……

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 結局あのあとも、求められるまま体を重ねてしまい……二人ともお風呂で上せてしまった。止まらなかったのはアゼル様だけれど、ちゃんと抑制出来なかったのはわたしだから……みたいな話をソファに座りながらヨル君にしたら、「甘すぎじゃん?」と言われてしまった。

「僕がおまえの立場だったら、惚れられてることを盾にして、徹底的に相手を管理して、こき使うけどなぁ」
「確かにヨル君ならやりそう……」
「最強種族に大事にされてるってだけで『旨み』なのにさ、ユフィは欲がないっていうか……」
「アゼル様は大切な人だから、こき使うなんて……。今まで迷惑をかけてきた分もっとお返ししてあげなくちゃって思ってるよ」
「想像通りの回答過ぎて何の面白みもないわぁ…………うごばっ」
「うんっ?」

 ヨル君が急に真横に吹っ飛んでいった。……なんか「うごばっ」ってすっごい声が聞こえたんだけれど、大丈夫だったのかな……? あ、でもなんとかソファに着地してるし、大丈夫そう……。ま、ヨル君は夜の住人ノク・レビンだし胴体を真っ二つにされない限り大怪我負ってもけろっと生きてるような存在ってアゼル様が言っていたから、そこまで心配しなくても平気かな?

「いま僕のこと『こいつなら平気だろ』みたいに思ったでしょ!?」
「うそ。どうして分かったの!?」

 すっごーい。ヨル君、心も読めるんだ……! と感心していると、ヨル君を魔法で吹っ飛ばした張本人がわたしの目の前に立った。

大鴉ヨルビノは心を読めるわけじゃない。ただユフィが分かりやすいだけ」

 アゼル様は「ユフィに近付き過ぎだ」とヨル君に文句を言っていた。たぶんヨル君がわたしの肩に触れたり髪に触れたりしてきたから、吹っ飛ばしたんだろうけれど。

「僕の扱いひどくない!?」
「今まで吸血鬼ヴァンパイアに仕えてきたんだろう? ならこれくらい何も思わないはずだよ。むしろ、優しいくらいだと思ってるけど?」
「おにー。げどー。ハーフヴァンパイアー」
「好きに言っておけ」

 言いながら、アゼル様は持っていた瓶の蓋を開けて、一思いに呷っていた。
 それってもしかして……。

「プレッツェのジュース?」

 花の蜜とプレッツェの実を潰して作ったオリジナルジュースだ。まだわたしの血を吸っていなかった時に、アゼル様が定期的に飲んでいたものだ。

「ユフィに無理させちゃったからね。我慢できなくなる前にこっちを飲んでおけばよかったって、反省してる。はしゃぎ過ぎたよ」
「は、はしゃぎ過ぎた……?」
「うん。ユフィが持ってたラッキーアイテムが面白くてつい、ね。次はちゃんとベッドでマッサージしないとダメだね。お風呂だとのぼせるし、滑って危険だ」

 いたって大真面目な顔で「反省した」とのたまうアゼル様に、開いた口が塞がらない。
 まさかアゼル様が、わたしをヌルヌルでマッサージすることに楽しさを見出して、次もやってみたいと言い出すなんて……。

 わたしの肌も、確かに気持ち……ほんの気持ち程度、美肌になった気がするし。

 ラッキーアイテムの力って、実はものすごいのかもしれない。

 そこまで考えて、もう一個のラッキーアイテムの存在を思い出す。薄桃色の液体。たぶん、種類が違うラッキーアイテムなのだろう。まだ説明書は詳しく読んでいないけれど、そっちも使えば、もっとすごい効果が見込めるかもしれない。

 ……あれ?
 ……でもこれって本当に運気向上って言えるのかな?

「──もう日付が変わっているというのに賑やかですね」

 開かれた扉にノックして、客間に入ってきたのはランブルト様だった。

「私たちも混ぜてもらってもよろしいですかね?」

 ランブルト様の服を掴んで、じーっとわたしを見つめるルカ君の姿。
 一度寝たけれど、さっきのヨル君の声で起きてしまったんだろう。

 ……………なんか。
 ……本っ当にごめんなさい……。



 *



「ユフィさんは子どもを寝かしつける天才ですね」
「たぶん、……最初から眠かったんだと思うんですよね、ルカ君」
「きっと貴女が近くにいると安心するんだと思いますよ」
「そう、なんでしょうか……」

 あのあと、わたしはルカ君と一緒のベッドに入り、ランブルト様の代わりに寝かしつけていた。喋ったのは最初だけで、そのあとすぐにすやすやと寝息を立てていた。可愛かったなぁ、ルカ君の寝顔。

「そういえばランブルト様は一緒に寝てあげないんですか?」
「ええ、もうルカは一人で寝られるので」
「わ……すご……」

 オバケが怖くて他人のベッドに潜り込もうとしたわたしとは大違いだ。
 しかもあのとき、わたしもう十歳だったし……。

「……ユフィさん」
「なんですか?」
「……まだ、眠くないのですか?」
「ああ、やっぱりびっくりしちゃいますよね。もうこんな時間なのに」
「…………ええ、正直に言えば」

 日付変更の時間をとっくに過ぎ、今は真夜中。
 普通の人間なら、もう眠くて仕方ないはず。

「でも寝ますよ。今寝ないと、昼間に居眠りしちゃいますから」

 ──わたしの体は、もう人間じゃない。
 
 いや、わたしだけではない。
 ハーフ吸血鬼ヴァンパイアのアゼル様、大鴉ヨルビノのヨル君。
 みんな陽の光を嫌い、月が輝く夜を好む夜の住人ノク・レビンだ。

 この家に住んでいる者は、見た目が人間でありながら、人間ではない者たちだ。
 すっかり今の生活に慣れてしまって、人間ヒトがどんな生活リズムを送っていたのか、忘れてしまう事がある。

「さっきもうるさくしちゃってごめんなさい。あぁでも、心配する必要はないですよ。ヨル君はあんなんですから、アゼル様に何を言われてもけろっとしてるんですよ」
「…………」
「ランブルト様……?」

 後ろを振り返ると、ランブルト様は「何でもありませんよ」と首を振っていた。

「そんなことより、いくら虚弱体質ではなくなったからって、冬なんですからちゃんと暖を取ってくださいね。大切な体に支障をきたすよ」

 どうやら、わたしの恰好がランブルト様にとっては薄着すぎると判断されたらしい。夏用の寝間着にショールを一枚かけていただけ。

 のぼせてしまったから、むしろちょうどいいと思っていたのだけれど。

「俺の前で肌を見せるのは感心しないな」
「……っ」

 一瞬、ランブルト様の武骨な指がわたしの肩に触れて、びくんっ、としてしまった。
 でもすぐに、ショールをかけられる。どうやらランブルト様が、ショールをかけ直してくれたみたいだ。

「では私も寝ますね」

 ランブルト様が去っていく。
 その背中に、わたしは待ったをかけた。

「明日、早く起きて朝食を作りますね……!」
「ムリしなくていいですよ。朝、起きるの苦手でしょう?」
「そ、そうなんですけど、でもランブルト様より遅くに起きるなんて……」
「では、期待して待っていますね。私はいつも通りの時間に起きます」

 にこりと笑って、ランブルト様は去っていった。



 そして結局、わたしは寝坊してしまった。
 大慌てで厨房に行ったら、朝食を作っているランブルト様がいた。

 うぅ…………一生の不覚……。





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