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6. 殿下と彼の臣下 - ①
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エリーゼが俺と同じ気持ちだと分かって、俺は自分でも引くほど浮かれた。浮かれまくって、まともな時間に帰宅できればほぼ毎日エリーゼを抱いた。
お互いに「好き」とか「気持ちいい」と伝え、キスしながらセックスするのが気持ち良すぎて、本当に幸せだった。
この手に入れたものを失ったら死ぬんじゃないかとすら思ったが、実際にその時が来ると意外と冷静でいられるらしい。
「チャーリー、エリーゼとは上手くやってるみたいだね」
殿下は雑談用の、あまり魔力を使わない防音結界を張ってから俺に話しかけた。
隣国との会談のあと、ふと殿下と二人きりになったのだ。相変わらず殿下はものすごく可愛いが、前みたいに胸はときめかない。
「はい!上手くやってます」
俺が返事をすると、殿下は楽しそうに笑った。
「よかったよ。エリーゼが秘書官になってくれて本当に助かってるんだ。色んな人に早く妃を娶れって、そのほうが楽になるって散々言われて、信じてなかったんだけどさ……やっぱり女性じゃないと入れない場所も結構あるし、女性のネットワークっていうの?裏から政治を動かす力もすごいよね。勉強になったよ」
「そうなんですか?」
「うん。夫より妻を動かす方が色々スムーズにいくことが多いんだよね。不確かでも情報が入ってくるのも早いし、大事になる前に色々動けて助かるよ。僕もまだまだ勉強不足だった」
「それ、エリーゼに直接おっしゃっていただけませんか?以前女だとできることが少ないってちょっと落ち込んでました。殿下の護衛にもつけないし」
殿下は意外そうに目を瞬きした。
「そうなの?ちゃんと褒めてるんだけどなぁ。僕も言うけど、チャーリーからも言っておいてよ。ほら、褒め言葉って、第三者に言ってもらったほうが響くでしょ?」
「確かに!噂話とかで褒められると嬉しいですもんね!もちろんです!」
殿下は目を細めて笑った。
「チャーリーは本当にいい子だよね」
「俺ですか?恐縮です!」
「うん。エリーゼが秘書官でいてくれるのも嬉しいけど、チャーリーが僕の近衛騎士でいてくれるのも本当に助かってるし、嬉しいからね。これからもよろしくね」
思わぬところで自分まで褒められて、ものすごく嬉しい。嬉しくてそわそわする。
「はい、死ぬまでお仕えします!俺は元気と丈夫さが取り柄なので、殿下のこと守って死ぬって決めてます」
「ははっ、ありがとう。確かに元気で丈夫だけど、他にもたくさんいいところはあるでしょ。僕を守って死ぬなんて悲しいことは言わないで欲しいな。家族に囲まれて、幸せに死ぬ方がいいよ」
「殿下……」
殿下が優しすぎて感動して泣きそうになった。
殿下は本当にいつも優しいし、臣下一人一人のことをよく見てくれるし、国民にも優しいし、たまにちょっと抜けてて可愛くて守りたくなるし、でも優秀だし、話していて面白い。
「君は優しいし、勢いで生きてるようで、色々面白いことも考えるよね。ルイが女の子だって分かった時、僕は妃に迎えるくらいしか一緒にいる手段を思いつかなかったけど、まさか150年前の法律を持ってきて提案してくれるとは……本当に君って面白い」
殿下はにこっと笑って、歩き始めた。
俺が呆然として立ち止まっていると、足を止めて振り返り、首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ!」
俺は慌てて殿下を追いかけた。
横に並ぶと、殿下は俺より身長が低くて、可愛くて、いい匂いがするけれど、それでも男だと分かる。喉とか、肩の形や、眉や顎、細かいところが女の子とちょっと違うと思う。
殿下は男で、エリーゼは女。その殿下の中に、エリーゼを妃として迎えて一緒にいる選択肢があったことに衝撃を受けていた。
もしかして俺は、ものすごく余計なことをしたのだろうか。
*
殿下に対し、「もしかして俺が結婚するとか言い出さなければエリーゼを娶る予定だったのでしょうか?」とは流石に聞けなかった。
もしその返事がYESだったら俺は一体どうすればいいのか分からなくなってしまう。
今日殿下が俺にエリーゼとの仲について聞いたのは、エリーゼを妃に迎えるための情報収集だったりするのだろうか。
ただの秘書官より、王太子妃、いずれは王妃になった方が、同じ女性でもできることが格段に増える。
殿下はエリーゼの働きに感謝していて、エリーゼは殿下の役に立つのが好きだ。仕事大好き殿下大好き人間だ。俺も殿下が大好きだ。
「うわあ、どうしよう、どうしたら……?!」
俺は仕事が終わってからも殿下との会話が頭から離れず、寝る支度が終わっても眠れる気もせず、頭を抱えていた。
寝室の扉からエリーゼが入ってきた。
「チャールズ?何を叫んでるんだ。廊下まで声が聞こえてる」
「えっ、うそ!」
「嘘じゃないよ。殿下がどうのこうのって言ってなかったか?何があった?」
エリーゼが外に声が漏れないように結界を張った。
「いや、その……殿下……殿下っていい匂いするよな!」
エリーゼが顔を顰めた。
「は?それは……お前……」
エリーゼはむっとした顔のまま俺に近づいてきて、俺のことをベッドに押し倒した。
「もうっ、殿下が可愛いとか、殿下いい匂いするとか、確かにそうだけど……そうだけど私がいるのにそういうことを言うな」
「えっ」
エリーゼが俺に馬乗りになって口を塞いだ。
「んんっ」
エリーゼの手が俺の腹を撫でる。ぞくぞくした快感と期待が腰から迫り上がってきて声が漏れる。
「ぁ……」
舌が絡むと気持ちよくて頭がぼんやりして、エリーゼに身を任せたくなってしまう。そこではっとした。俺は慌ててエリーゼの身体を引き離した。
「待った!待って、よくない……!だめだ、エリーゼ、王太子妃になるかもしれないから俺ともうこういうことしない方がいいと思う!」
「は?」
エリーゼは今まで聞いたことのないような、ルイと同じくらい低い声を出した。ちょっと殺意がこもっていて怖かった。
お互いに「好き」とか「気持ちいい」と伝え、キスしながらセックスするのが気持ち良すぎて、本当に幸せだった。
この手に入れたものを失ったら死ぬんじゃないかとすら思ったが、実際にその時が来ると意外と冷静でいられるらしい。
「チャーリー、エリーゼとは上手くやってるみたいだね」
殿下は雑談用の、あまり魔力を使わない防音結界を張ってから俺に話しかけた。
隣国との会談のあと、ふと殿下と二人きりになったのだ。相変わらず殿下はものすごく可愛いが、前みたいに胸はときめかない。
「はい!上手くやってます」
俺が返事をすると、殿下は楽しそうに笑った。
「よかったよ。エリーゼが秘書官になってくれて本当に助かってるんだ。色んな人に早く妃を娶れって、そのほうが楽になるって散々言われて、信じてなかったんだけどさ……やっぱり女性じゃないと入れない場所も結構あるし、女性のネットワークっていうの?裏から政治を動かす力もすごいよね。勉強になったよ」
「そうなんですか?」
「うん。夫より妻を動かす方が色々スムーズにいくことが多いんだよね。不確かでも情報が入ってくるのも早いし、大事になる前に色々動けて助かるよ。僕もまだまだ勉強不足だった」
「それ、エリーゼに直接おっしゃっていただけませんか?以前女だとできることが少ないってちょっと落ち込んでました。殿下の護衛にもつけないし」
殿下は意外そうに目を瞬きした。
「そうなの?ちゃんと褒めてるんだけどなぁ。僕も言うけど、チャーリーからも言っておいてよ。ほら、褒め言葉って、第三者に言ってもらったほうが響くでしょ?」
「確かに!噂話とかで褒められると嬉しいですもんね!もちろんです!」
殿下は目を細めて笑った。
「チャーリーは本当にいい子だよね」
「俺ですか?恐縮です!」
「うん。エリーゼが秘書官でいてくれるのも嬉しいけど、チャーリーが僕の近衛騎士でいてくれるのも本当に助かってるし、嬉しいからね。これからもよろしくね」
思わぬところで自分まで褒められて、ものすごく嬉しい。嬉しくてそわそわする。
「はい、死ぬまでお仕えします!俺は元気と丈夫さが取り柄なので、殿下のこと守って死ぬって決めてます」
「ははっ、ありがとう。確かに元気で丈夫だけど、他にもたくさんいいところはあるでしょ。僕を守って死ぬなんて悲しいことは言わないで欲しいな。家族に囲まれて、幸せに死ぬ方がいいよ」
「殿下……」
殿下が優しすぎて感動して泣きそうになった。
殿下は本当にいつも優しいし、臣下一人一人のことをよく見てくれるし、国民にも優しいし、たまにちょっと抜けてて可愛くて守りたくなるし、でも優秀だし、話していて面白い。
「君は優しいし、勢いで生きてるようで、色々面白いことも考えるよね。ルイが女の子だって分かった時、僕は妃に迎えるくらいしか一緒にいる手段を思いつかなかったけど、まさか150年前の法律を持ってきて提案してくれるとは……本当に君って面白い」
殿下はにこっと笑って、歩き始めた。
俺が呆然として立ち止まっていると、足を止めて振り返り、首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ!」
俺は慌てて殿下を追いかけた。
横に並ぶと、殿下は俺より身長が低くて、可愛くて、いい匂いがするけれど、それでも男だと分かる。喉とか、肩の形や、眉や顎、細かいところが女の子とちょっと違うと思う。
殿下は男で、エリーゼは女。その殿下の中に、エリーゼを妃として迎えて一緒にいる選択肢があったことに衝撃を受けていた。
もしかして俺は、ものすごく余計なことをしたのだろうか。
*
殿下に対し、「もしかして俺が結婚するとか言い出さなければエリーゼを娶る予定だったのでしょうか?」とは流石に聞けなかった。
もしその返事がYESだったら俺は一体どうすればいいのか分からなくなってしまう。
今日殿下が俺にエリーゼとの仲について聞いたのは、エリーゼを妃に迎えるための情報収集だったりするのだろうか。
ただの秘書官より、王太子妃、いずれは王妃になった方が、同じ女性でもできることが格段に増える。
殿下はエリーゼの働きに感謝していて、エリーゼは殿下の役に立つのが好きだ。仕事大好き殿下大好き人間だ。俺も殿下が大好きだ。
「うわあ、どうしよう、どうしたら……?!」
俺は仕事が終わってからも殿下との会話が頭から離れず、寝る支度が終わっても眠れる気もせず、頭を抱えていた。
寝室の扉からエリーゼが入ってきた。
「チャールズ?何を叫んでるんだ。廊下まで声が聞こえてる」
「えっ、うそ!」
「嘘じゃないよ。殿下がどうのこうのって言ってなかったか?何があった?」
エリーゼが外に声が漏れないように結界を張った。
「いや、その……殿下……殿下っていい匂いするよな!」
エリーゼが顔を顰めた。
「は?それは……お前……」
エリーゼはむっとした顔のまま俺に近づいてきて、俺のことをベッドに押し倒した。
「もうっ、殿下が可愛いとか、殿下いい匂いするとか、確かにそうだけど……そうだけど私がいるのにそういうことを言うな」
「えっ」
エリーゼが俺に馬乗りになって口を塞いだ。
「んんっ」
エリーゼの手が俺の腹を撫でる。ぞくぞくした快感と期待が腰から迫り上がってきて声が漏れる。
「ぁ……」
舌が絡むと気持ちよくて頭がぼんやりして、エリーゼに身を任せたくなってしまう。そこではっとした。俺は慌ててエリーゼの身体を引き離した。
「待った!待って、よくない……!だめだ、エリーゼ、王太子妃になるかもしれないから俺ともうこういうことしない方がいいと思う!」
「は?」
エリーゼは今まで聞いたことのないような、ルイと同じくらい低い声を出した。ちょっと殺意がこもっていて怖かった。
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