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2. 名案と詐欺 - ②

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俺とルイが結婚して、ルイが殿下の秘書官になるという天才的アイデアを聞くと、殿下はぽかんとしていた。しかしすぐにルイがいいなら推薦すると言ってくれた。

俺はルイに、やってみて違ったら辞めればいいと伝えた。本当はまだ殿下のそばにいたいんじゃないか?と聞いてみたら、ルイはものすごく悩んだ様子だったけれど頷いた。

そうして俺たちの結婚は決まり、一旦ルイは事業を継ぐという名目で引退し伯爵家に戻った。
それから、ルイというのは弟の名前らしいので、ルイは自分の本名であるエリーゼとしても伯爵家の養子に入り、3ヶ月後、ルイ、じゃなくてエリーゼは俺と結婚した。
実在する弟と、エリーゼに戻ったルイ、二人とも伯爵家の養子になったそうだ。

俺たちは宿舎を出て城下町に小さな屋敷を買った。すぐ出仕できることが第一優先だから狭いし古いが、宿舎より圧倒的に広い。二人ともほぼ家にいないことを考えれば許容範囲だろう。

形式ばった結婚式を終え、二人で屋敷に戻り、俺は死ぬほど緊張していた。目の前に知らない美女がいるからだ。
いやよく見れば顔はルイなんだけど、普通に女の子だ。しかも今までは魔法で声も低く変えてたらしくて、こんなの、もはや別人じゃないか。

「詐欺だ」
「は?」

俺はルイが王宮を去らないようにするために必死で、他のことはあまりよく考えていなかった。

(これから毎日帰ったらこの美女が家にいるってこと?!無理、好きになっちゃう)

美女な上、中身がルイなので気が合うのも知ってる。

ルイは冗談も通じるし、俺のおしゃべりに付き合ってくれるし、失恋した時も呆れず毎回慰めてくれる。
基本は澄ました顔をしているが、楽しそうに笑うことも知っている。

女版のルイがすごく俺を見ている。
じっと見られるともしかして俺のことを好きなのかなって勘違いするからダメなんだって。

俺はルイと同室になって以来、好きな人が出来たらルイには秒で報告していたが、今回ばかりは報告できそうもない。

「チャールズ」
「えっ?!何!」

もしかして、もう好きになったことに気付かれたのだろうか。心臓が止まるかと思った。

「後ろにいるトーマスがさっきから話しかけてるけど」
「えっ、嘘。ごめんトーマス、何?」

使用人のトーマスに声をかけると、トーマスは夕飯のメニューとワインについて提案してくれた。結婚式の後なのであまり食欲がないのではないかと気遣ってくれたようだが、俺は普通に空腹だ。

「ル……じゃなくて、エリーゼは?」
「任せるよ」

ルイ、じゃなくてエリーゼが応える。ルイは……もう心の中ではルイでいいか。ルイは食事を決めるのが面倒らしくて、一緒にいると俺が食べてるものを食べる。

「じゃあ、ニシンのパイにしよう。上に魚が乗ってるやつ。おめでたい時はこれだもんな」

ルイの実家、伯爵家の夫人は料理が趣味で、たまに自分で食事を作るらしい。祝い事があるとよく作ってくれると聞いている。
料理人は伯爵家の方が手配してくれたと聞いているから、馴染みのある味を再現してくれるのではないだろうか。

ルイは俺の提案に対して軽く目を見開いてから頷いた。

ルイは頷いて、トーマスにはニシンパイをメインにしてくれと頼んだ。
それなのに結局夕飯はニシンのパイではなくミートパイがメインになっていた。

「なんで?」
「チャールズはニシンのパイが苦手だから。忘れたのか?」
「そうだっけ」

ルイはふっと笑った。仕方ないな、という顔をしている。

「ルームメイトになったばかりの頃に、母の手土産に微妙な顔してたよ」
「え?そんなことは……、あっ!あれは骨が歯の間に刺さって痛かったからだ」
「そうなの?」
「そうだよ!好きじゃなかったらわざわざ食べようとか言わないし。今度伯爵夫人にレシピもらってきて、ニシンパイ再挑戦しよう」

ルイは頷いた。ふぅん、と涼しい顔をしている。

「ル……エリーゼはそういうとこあるよな」
「ん?」
「なんでも人に言わないで一人で解決しようとするだろ。家族になったんだから、今後は一言言ってくれよ。小さいこともそうだけど、いきなり『明日消えます』は絶対ナシ!寂しいだろ」

ルイは軽く目を見開いた。

ルイは優秀だから、周りに相談するよりも一人でさっさと解決策を出して実行までやってしまう方が早い。それは分かる。俺もルイに助けられてきた一人だ。

でも今回のことみたいに、一人で勝手に結論付けて、消えることを選ぶのは寂し過ぎる。俺はルイの性別を知っても言いふらしたりルイが困るようなことはしない。絶対助けになるつもりがあるのに、頼ってもらえなかった事実に地味に傷付いた。少なからず裏切られた気分になった。

「ごめん」
「俺は口が軽いから、信用ならないかもしれないけど」
「そういうわけじゃないんだ。巻き込みたくなかっただけ。同罪に問われたら、お前もクビじゃ済まない可能性だってあった」
「そっか。気遣ってくれてありがとな。でもこれからは、なんかあったら相談してほしい。今回みたいに他の選択肢が出てくるかもしれないしさ。家族なんだから協力しよう」

ルイは俺の顔をじっと見つめてから頷いた。一瞬泣きそうに見えたけれど、すぐにいつもの涼しい顔に戻った。

夕飯を食べて、眠る支度をして、新調したばかりのベッドに仰向けになっていたらノックが聞こえた。

宿舎と違い、この家はベッドが広くてものすごく快適だ。
正直起き上がりたくなかったが、もしかしたら王宮からの呼び出しの可能性があるので待たせないように扉に向かう。
扉の向こうには年配のメイドがいた。急ぎの用ではなさそうだ。

「どうした?」
「奥様のお支度ができましたのでご案内して参りました」
「お支度?」

メイドが扉を広めに開くと、ルイが部屋の中に入ってきた。髪を下ろしている。この三ヶ月の間に少しだけ伸びているのが分かった。

ルイは長いガウンを羽織って、その下に真っ白な夜着を着ている。布が薄い。足の方は透けてしまっている。
扉が閉まった。

「えっ?!」

こんな薄着のルイと二人で取り残されても困る。俺は助けを求めるように扉を見たが、しっかり閉まっていた。
ルイは気まずそうだ。

「初夜はこういう夜着を着るのが習わしらしいよ」
「しょや」

俺はルイと結婚したことを思い出した。でもそこに、普通の夫婦と同じ関係が付いてくることを想像していなかった。
どうりで一人で寝るにはベッドが広すぎるわけだ。

「……っていうか、ルイって本当に女なのか?」
「は?」
「だって、お前、俺より娼館に通って女の子抱きまくってなかった?!バックからガンガン突くのが好きなんだろ?普段から想像つかないくらい激しいって」

ルイは目を見開いた。

「なんでお前がそんなこと知ってるんだよ」
「聞かなくても女の子が教えてくれるからだよ!俺だってお前のシモ事情なんか知りたくなかった」

ルイは小さくため息を吐いた。

「それは悪かったね。女の子とする時は魔導具を使ってた。ペニスがあって性行為が大好きだったら、誰も私が女だなんて想像しないだろうと思って」
「確かに。お前巨根だって噂になってるし」
「……期待通りの成果でも直接聞くと複雑だな。他にも色々誤魔化しの小細工はしてたけど、正直お前以外が相部屋だったらバレるのは時間の問題だと思ってたよ。お前はなんでも私の話を信じてくれたから、結構罪悪感もあった」
「そうなのか」

ルイは困ったように笑った。

「ああ。だから、バレて少しだけホッとしてるところもある。チャールズ、今日は流れで準備はしてきたけど、流石に……」

ルイは少し視線を下げた。
ちょうど俺の下半身が目に入ると思うが、俺の下半身は非常に単純で、目の前に薄着の美女がいて、しかも俺に抱かれに来たと言うので普通に元気になっていた。
夜着は柔らかい布だ。ちょっと勃ってるのが分かると思う。
気まずい。

ルイが軽く目を見開いた。
ルイは化粧を落としたのか、結婚式の時より幼く素朴に見えて、でも頬は緊張からか軽く赤みを帯びていて、不安を隠しきれない表情が可愛かった。

しかも夜着が薄くて、襟ぐりが開いていて、思ったより控えめじゃない胸まで見えている。この夜のために、わざわざ準備してきてくれたことにもぐっときた。

「その、ルイは美人だから……」

敗北感で小さな声で呟くと、ルイはふっと笑った。

「面食いだな。この顔で生まれて良かったよ」

ルイは俺に近寄り、頬に手を添えると自分からキスしてきた。唇と唇が軽く触れるだけだ。

「……!」
「私が急にいなくなったから、忙しくて娼館に行く暇もなかっただろ。どう?続きはできそうか?」
「ルイなのに良い匂いがする……」

完全にこの状況と目の前の誘惑に負けている。情けない声が出た。

「そういう準備をしてきたからだよ」
「あ。俺、名前……」
「いいよ、エリーゼでも、ルイでも。お前が萎えないなら」

ルイが柔らかく笑った。
なんかこう、いつもの涼しい笑みとも、馬鹿笑いとも違う優しい笑い方で、すごく可愛い。胸がきゅんと痛くなった。

萎えるどころか股間は痛いくらいになっている。金を払わず女の子に触れるのははじめてだ。しかも、ルイが自分の意思で俺にキスして、ルイはこの先俺にしか抱かれないのかと思うと、心の中がめちゃくちゃになりそうだ。
この状況が信じられず、本当にいいのだろうかと不安になってしまう。

ルイは俺の顔をじっと見つめて、もう一度キスをした。今度は少しだけ長く。意味が分からないくらい心臓がうるさくなってきた。
唇が離れると、眩暈がしてくらくらしてきた。

「それどういう顔なんだ?」
「分からない。助けて」
「なんだそれ」

ルイは呆れたように、しかし優しく笑った。
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