上 下
23 / 63
死刑執行されたら、勇者として生き返って即魔王を倒してました~さらに蘇った奴の愛人になってました。なんでだ?~

第13話 真夜中の逢瀬というには、権謀術数

しおりを挟む



「それで、こんな夜遅くに二人きりでお話をしたいなんておっしゃられて、まさか、そのお歳で逢い引きのお誘いかと思ったらまあ、こんな二人も美男を連れてこられるなんて」

 氷の国の女王リズの言葉は機知にとんでいて、突き刺すような辛辣さがある。が、カーク王は彼女との会話が楽しみではあった。

 女王にあてがわれた客室。カークが人払いをして話をしたいと申し入れれば、なにかあるとわかったのか女王は、すみやかに応じてくれた。
 護衛の騎士も隣室に下がらせ、バルコニーからはいってきた二人の姿に、さすがの女王もカーク王と同じく目を見張り、勇者が魔王を紹介したのに「よくわかりやすい説明ありがとう」とまで答えたのも同じだった。

 そして、四人で卓を囲んでいる。ヴァンダリスが自分の魔法倉庫マギ・インベントリよりひょいひょいとティーポットにカップを出してお茶を注いだ。それを一番先に女王へと差し出したのは、騎士らしい作法であった。
 「ありがとう」と魔王と逃げた勇者の煎れたお茶を飲む女王も剛毅だ。

「これは美肌に良い薬草茶です。女王へと」
「ああ、魔界の薬草園のお茶ね。なかなか手に入らないのよ」

 女王とてやはり女性。勇者が取り出した小さな茶の缶を見て、嬉しそうに口許をほころばせる。それが大陸の王侯に貴族、ブルジョアの婦人が殺到して、なかなか手に入らない薬草茶だと、カークも知っていた。自分の娘である王女三人も、王家の特権を利用しても手に入らないと嘆いていたからだ。

「カーク王にはこれを」

 と今度は魔王から差し出されたのは、一本の酒だ。魔界の最高級品のガラス越しにも美しい琥珀色のそれに「頂こう」とカークは先の女王同様、頬をゆるめた。
 この程度の“ささやかな贈り物”で懐柔されるような王と女王ではない。とはいえ、大仰過ぎない贈り物というのはかえって、相手の心証を良くするものだ。
 このあと、円滑な会話をするためにも必要な小道具だ。

 ヴァンダリスはリズ女王に、先のカーク王に話したのとまったく同じ内容をくり返し説明した。自分が王の殺害犯として、王女に陥れられたこと。そして、殺したはずの魔王に助けられて魔界に渡り、この世界の真実を知ったことをだ。
 まあ、アスタロークとのあれこれは、もちろん省いた。これは今回の交渉に関係ない。

 「それで?」と経緯を聞いた女王は返した。「あなたの罪が、えん罪として、それがわたくしになんの関係があるのかしら?」と。
 冷たいように聞こえるが、これはゴース国内のことであり、他国の王であるカール王とリズ女王には、それを正す義務もない。そもそも、それが国のためと思えば、正しい物でも曲げるのがまつりごとというものだ。

 「たしかにこれは俺の事情だ。あなた方には関係ない」とヴァンダリスはカール王の時と同じく肩をすくめた。そしてリズ女王は。

「問題はあなたがその魔王と魔界に逃げたことよ。これは千年前に勇者と魔王の取り決めがなされた。それを揺るがす事案だわ」

 まったくカール王と同じことを彼女は言う。カール王のときは、アスタロークが「その先のことに関しては、アビリオンの女王を交えて」と答えた。

「魔界は勇者を引き渡さない。これは魔界の八大諸侯全員の意思だ」

 アスタロークが低い美声で告げる。今はマルコシアスが欠けて七大諸侯となっているが、それは些末さまつなことだ。
 魔界の諸侯は全員一致して、勇者を庇護ひごすると決めたのだから。

 「戦になるぞ」とカール王。「魔界はそれも避けたいとは思っている」とはアスタローク。「勇者をかくまう限りは人界との衝突は不可避よ」とリズ女王。アスタロークはそれもわかっているとうなずく。

「そこで魔界は一計案じる。そちらにわざと勇者を引き渡すふりをする。引き渡し役はこの私。月の隠れ里の領主、アスタロークだ」

 カール王とリズ女王は顔を見合わせる。そこまで魔界が手の内を明かすことをいぶかしんでいるようだった。次にくるだろうアスタロークの言葉に、ヴァンダリスは頭を抱える。

「だが、護送途中で私は自分の諸侯の地位に、領主である立場を放棄して、我が愛しい恋人であるヴァンダリスの手を取って逃げる。
 魔界は勇者引き渡しの義務は果たした。これは私のまったく私情であり、魔界は関係ない」

 人界の王も女王もぽかんとした顔をして、次に頭を抱えるヴァンダリスを見た。それでも答えねばならないと、彼は真っ赤な顔をあげる。

「まあ、そこの元魔王のたわごとはおいておいて」
「私は本気だぞ」
「あんたは少し黙っていてくれ」

 さすがにいつもの怒鳴り声ではなく、静かに言う。部屋に結界は張っていて、隣室にいる不寝の番の騎士も、中の会話は聞こえていないだろうが。

「勇者と魔王の逃避行なんて、人界は大混乱に陥るだろうな。俺達はわざわざ捕まるつもりはないし、逃げ切る自信だってある。
 エアンナ女神の神託で次の勇者に選ばれるものは大変だ。なにしろ、魔王をたおした勇者と、二度勇者を倒した魔王を二人とも討伐しろなんてな」

 「そもそも、女神の神託があるかどうかもわからない」ヴァンダリスは続けた。「勇者と魔王は生きて一緒に逃げているんだから、それこそ、千年間の密約の崩壊じゃないか?」と不敵な勇者の微笑みに、王と女王は愕然とした顔となる。
 為政者として民の国への批判をそらすために、外に敵があり、すべて悪と災厄の原因は魔王であるとして人界は回ってきたのだ。それの中途半端な形での崩壊は、世の不満の行き所を無くし、さらにはその矛先が逆に国や施政者に向けられることとなる。

「とはいえ、勇者という希望が無くなったって、王と女王、二人の国は困らないんじゃないか? あんた達は、そこそこに良い政をしいていて、国も富んでいる」

 そう、だからヴァンダリスはこの二人を選んだのだ。十国の王の中で、かなり上出来に王としての役目をはたしている。そして英明であり、この千年世界を維持してきた、勇者と魔王の取り決めに、このままで良いのか? とかすかな疑問を持っている。
 勇者としてこの王達に謁見したときの記憶からしてそうだ。他国の王や貴族、自由都市の市長のように勇者を熱狂的に迎えることはなかった。あくまで国として儀礼的に勇者を迎えて、その責務を援助した。

「魔界としては、魔王と勇者の人界との取り決めは、この代で終了を申し入れたいと思っている」

 勇者ヴァンダリスだけではなく、元魔王であり、今は魔界の代表であるアスタロークの言葉に、王と女王は再び息を飲む。

「取り決めは千年間、魔界の平和を保ってきたが、ここ近年弊害も大きくなっている。送られてくる勇者の間隔だ。
 初めの二百年が百五十年、そして百年、五十年。そして私の代では、二度勇者を退けたとはいえ、三十年単位だ。これでは魔王となる、諸侯の消耗があまりにも大きい」

 アスタロークが百歳と魔族にしては若年で、諸侯の一人となったのも、彼の父もまた魔王として勇者に倒されたからだ。そして、アスタロークがくじ引きで魔王に選ばれたのも、比較的若年ばかりだった諸侯から、誰を選ぶか難航したためにいさぎよく、くじ引きでとなったという。
 ちなみに、最長老であるベローニャはあの容姿であるからしてもとより除外であるし、ドワーフのガミジンも同様だ。マルコシアスは性格と能力からして例外と。

「逆にこの千年、人界はなにしていたんだ? 魔王がすべての悪だと押しつけて、勇者は希望だと持ち上げて、それをぐるぐる回転させていただけだ。
 あげく、勇者の乱造じゃ、魔界だって付き合いきれなくなる」

 「さっきから思っていたのだけど」とリズ女王「勇者はずいぶんと口が乱暴になったものね? 魔界行きの影響?」という言葉にヴァンダリスは口の片端をつり上げて。

「いや、これが地だ。孤児院育ちなものでね。勇者様を取り繕うのは大変だったよ」

 「でもみんなそんなもんだろう?」とヴァンダリスは目の前の人間の王二人に向かい、悪い笑みを見せる。

「王様だろうが貴族だろうが勇者にしても、世間をごまかし続けていたんだ。あげく民は勇者と魔王の真実を知らないでいる」

 「とうの勇者だって、そこの魔王様に本当のことを聞かされたときは、世界がひっくり返るかと思ったぜ」とヴァンダリスが皮肉をいえば。
 「それがまつりごとだ」とカーク王「わたくしたち、王は理想という夢を見てはいられないの。現実はもっと味気ないものよ、ぼうや」とはリズ女王だ。「王とて、この世はままならないことだらけよ」とは彼女の本音だろう。それにカーク王が同意するように小さくうなずく。

 「なら、魔界がこれ以上魔王を出せないってのも現実だ」とヴァンダリスが告げれば、王と女王はその現実へと目を向ける。アスタロークに。
 「魔界はまた人界と戦争をするつもりか?」とカークが訊ねる。

「こちらは千年、魔王のみに頼りきっていたわけではない。それが崩壊したときの備えはある。百年でも二百年でも一人の魔族も損なわず、魔界に人の侵入を拒む結界を張り続けることが出来る」

 これは半分はハッタリだ。魔界全土をおおうような結界は張れない。だが軍のない魔界は、勇者に倒される魔王の間隔が狭まるにつれて、その備えをしてきたのは本当だ。
 魔界への進入路となるだろういくつかの峠を塞ぐ巨大な壁をたちまち構築する魔道具に、魔道士達が連動して張る防御結界。さらにその魔道士達の魔力を増幅、回復させる薬草園の秘薬。

 月明かりの里もただ人界と交易を行っていたわけでなく、各国の事情や軍事力は綿密に調査されていた。ヴァンダリスの人界の軍勢の試算に他の諸侯は驚いていたが、アスタロークが平然としていたのはそういうことだ。

 もし結界が突破されたときのためには、女将軍ウァプラの剣部隊が動く。魔界に軍はないが、この女将軍の剣の城は、その名のとおり剣を作り、その剣で互いを日々高めあい鍛錬している、まさしく一騎当千の猛者どもばかりだ。
 そして、ドワーフのザガンのミスリルの防具。蔵守という別名どおり、その鎧に付けられた魔法石は、さらに強固に剣部隊を守るだろう。人間どもの鋼の槍など、歯が立たんよ……というのが、ドワーフたちの自慢だ。

 「魔族にとってはたかが百年ではあるが、そちらではどうか?」とアスタロークの言葉に、カーク王はあごひげに手をやり、リズ女王はぎりりと手の扇を握りしめる。
 いかに富んでいる国であろうと、百年の戦争には耐えられない。まして、これはなんの見返りもない戦いだ。領土も財も得られなし、そもそも人間は百年も生きられず、兵も食料も財も消耗する。

 「それでどうしてわたくしたちに、その話を?」とリズ女王が聞く。カーク王も「そちらが女王とも話したいというから、こちらも引き合わせたのだ」と、二人ともこの交渉に乗ると暗に伝えた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。

櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。 次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!? 俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。 そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──? 【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

処理中です...