上 下
201 / 213
末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【51】やっぱり実家? に帰ります! 

しおりを挟む
   

 朝。
 大公邸。スノゥは門前にたたずんでいた。遠くから土煙……はあげてはいないが、ドドドという足音を立てて十人の赤狼達がやってくる。
 ちなみに大公邸とカルマンの屋敷は王都の郊外の東と西の正反対にある。それなりの距離だが、馬を使わず走ってくるのは鍛錬の一つだそうだ。
 赤毛の狼共は相変わらず元気だなとスノゥは思いつつ、馬を使わないのは、絶対馬を使うより早いから、一刻も早くここに着きたいからだろうと思う。まったく馬の立場って……と胸の中でつぶやきつつ、スノゥも急いでいるときほど馬は使わない。やはりお馬さんの立場って……。

「母上! おはようございます!」

 カルマンの大きな声が響き、続いて後ろのそっくりの顔した九人の息子達が「おはようございます!」と騎士団式よろしく、胸に手を当てて挨拶をする。いずれも今日の晴れ渡った抜けるよう青空に響く。

「良い挨拶だ。おはよう」

 挨拶には挨拶で返す。これは人としての基本だと、スノゥが息子のカルマンに教え、そしてカルマンが息子達に教えた。朝にはおはよう、昼にはこんにちは、夜にはおやすみなさい。
 そして『良い挨拶』とスノゥに褒められたことで、カルマンも九人の息子達もぱあっと明るい顔になった。『今日こそは……』と思ったのだろう。まったく単純な奴らだ。

「それとこれとは別だ。会わせねぇぞ」

 スノゥがそう言ったとたんに、赤狼たちの一瞬の喜びの表情は消え去り、しおしおと尻尾が垂れる。「そんなぁ~」とクロウが声をあげる。そんなやんちゃな様子は、昔のカルマンを思わせる。こいつが一番親父に似てるな……とスノゥは思いつつ。
 毎朝、カルマンと赤狼の息子達が、こうやって大公邸にやってくるのは、ブリーが『二度目の家出』をしたからだ。
 それは愛し子の帰還の日。カルマン邸のモモの部屋はてんやわんやの大騒ぎとなっていた。
 忘れていた愛され末っ子の帰還は喜ばしいが、それが男付き。しかも裸でベッドの上というのは大変まずかった。
 たとえ、それが建国の勇者だろうと、父カルマンは「絶対許さん」と聞かず、モモはモモで「僕はもう大人です。父様のご許可はいりません」と譲らなかった。
 あいだに入ったブリーはおろおろとし「カルマン様、そんなに怒らなくても……」そう、父と息子の間を取り持とうとした。

「お前は黙っていろ」

 とカルマンにしては珍しくも、ブリーに怒鳴った。その太い腕の中にいたブリーの茶水晶の大きな瞳が、みるみるうちに潤んでいく。カルマンは『しまった』という顔をするが、すでに時は遅い。
 ブリーはカルマンの腕から飛び出し、そして、スノゥの胸に飛びこんだ。スノゥは反射的にブリーを抱きとめて、その垂れたお耳の頭をよしよしと撫でてやる。

「カルマン様の頑固者! モモのお話も聞かないなんて! 私、実家に戻ります!」
「ブ、ブリー!」

 実家って、当然、俺達の家か……とスノゥはちょっと遠い目になる。そこにモモが。

「お父様はちょっとその頑固頭を冷やす必要がありそうですね。お婆様、僕もアルパと一緒に『実家』に行っていいですか?」
「ああ、いいぞ」

 とりあえずこいつらを一緒に居させたら修羅場だな、離したほうがいいとスノゥは判断してうなずく。大公邸を取り仕切っているのはスノゥであるため、横にいるノクトは無言だ。基本子供達のことはスノゥに任せている。
 まあ、なぐる蹴るの純血種同士の争いとなれば命がけであるからして、鉄拳制裁も辞さない、怖い勇者親父? であるが。

「私もモモと一緒にそちらにお世話になることになりました。よろしくおねがいします、お婆様とお呼びしても?」
「ああ、かまわないぜ」

 モモをしっかりと抱きしめたまま、全裸のままの美丈夫……顔はノクトにそっくり……がにっこりと微笑んだ。こっちも勇者だけあって、なかなかのクセモノだぜと、スノゥは腹の中でつぶやいた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

悪魔の子と呼ばれ家を追い出されたけど、平民になった先で公爵に溺愛される

ゆう
BL
実の母レイシーの死からレヴナントの暮らしは一変した。継母からは悪魔の子と呼ばれ、周りからは優秀な異母弟と比べられる日々。多少やさぐれながらも自分にできることを頑張るレヴナント。しかし弟が嫡男に決まり自分は家を追い出されることになり...

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。