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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【51】やっぱり実家? に帰ります!
しおりを挟む朝。
大公邸。スノゥは門前にたたずんでいた。遠くから土煙……はあげてはいないが、ドドドという足音を立てて十人の赤狼達がやってくる。
ちなみに大公邸とカルマンの屋敷は王都の郊外の東と西の正反対にある。それなりの距離だが、馬を使わず走ってくるのは鍛錬の一つだそうだ。
赤毛の狼共は相変わらず元気だなとスノゥは思いつつ、馬を使わないのは、絶対馬を使うより早いから、一刻も早くここに着きたいからだろうと思う。まったく馬の立場って……と胸の中でつぶやきつつ、スノゥも急いでいるときほど馬は使わない。やはりお馬さんの立場って……。
「母上! おはようございます!」
カルマンの大きな声が響き、続いて後ろのそっくりの顔した九人の息子達が「おはようございます!」と騎士団式よろしく、胸に手を当てて挨拶をする。いずれも今日の晴れ渡った抜けるよう青空に響く。
「良い挨拶だ。おはよう」
挨拶には挨拶で返す。これは人としての基本だと、スノゥが息子のカルマンに教え、そしてカルマンが息子達に教えた。朝にはおはよう、昼にはこんにちは、夜にはおやすみなさい。
そして『良い挨拶』とスノゥに褒められたことで、カルマンも九人の息子達もぱあっと明るい顔になった。『今日こそは……』と思ったのだろう。まったく単純な奴らだ。
「それとこれとは別だ。会わせねぇぞ」
スノゥがそう言ったとたんに、赤狼たちの一瞬の喜びの表情は消え去り、しおしおと尻尾が垂れる。「そんなぁ~」とクロウが声をあげる。そんなやんちゃな様子は、昔のカルマンを思わせる。こいつが一番親父に似てるな……とスノゥは思いつつ。
毎朝、カルマンと赤狼の息子達が、こうやって大公邸にやってくるのは、ブリーが『二度目の家出』をしたからだ。
それは愛し子の帰還の日。カルマン邸のモモの部屋はてんやわんやの大騒ぎとなっていた。
忘れていた愛され末っ子の帰還は喜ばしいが、それが男付き。しかも裸でベッドの上というのは大変まずかった。
たとえ、それが建国の勇者だろうと、父カルマンは「絶対許さん」と聞かず、モモはモモで「僕はもう大人です。父様のご許可はいりません」と譲らなかった。
あいだに入ったブリーはおろおろとし「カルマン様、そんなに怒らなくても……」そう、父と息子の間を取り持とうとした。
「お前は黙っていろ」
とカルマンにしては珍しくも、ブリーに怒鳴った。その太い腕の中にいたブリーの茶水晶の大きな瞳が、みるみるうちに潤んでいく。カルマンは『しまった』という顔をするが、すでに時は遅い。
ブリーはカルマンの腕から飛び出し、そして、スノゥの胸に飛びこんだ。スノゥは反射的にブリーを抱きとめて、その垂れたお耳の頭をよしよしと撫でてやる。
「カルマン様の頑固者! モモのお話も聞かないなんて! 私、実家に戻ります!」
「ブ、ブリー!」
実家って、当然、俺達の家か……とスノゥはちょっと遠い目になる。そこにモモが。
「お父様はちょっとその頑固頭を冷やす必要がありそうですね。お婆様、僕もアルパと一緒に『実家』に行っていいですか?」
「ああ、いいぞ」
とりあえずこいつらを一緒に居させたら修羅場だな、離したほうがいいとスノゥは判断してうなずく。大公邸を取り仕切っているのはスノゥであるため、横にいるノクトは無言だ。基本子供達のことはスノゥに任せている。
まあ、なぐる蹴るの純血種同士の争いとなれば命がけであるからして、鉄拳制裁も辞さない、怖い勇者親父? であるが。
「私もモモと一緒にそちらにお世話になることになりました。よろしくおねがいします、お婆様とお呼びしても?」
「ああ、かまわないぜ」
モモをしっかりと抱きしめたまま、全裸のままの美丈夫……顔はノクトにそっくり……がにっこりと微笑んだ。こっちも勇者だけあって、なかなかのクセモノだぜと、スノゥは腹の中でつぶやいた。
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