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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【21】楽しいお出かけ
しおりを挟むアルパとモモの二人は、翌日、城館を追い出された。
追い出された……というのは違うのかもしれない。『ちょっと田舎』の村の畑を巨大なボアが荒らし回っているからお前達二人で退治してこいと、族長に命じられたのだ。
「勇者と賢者の二人がいれば、いかに化け物のような大きさのボアでも、ひとひねりであろう? 供など必要ないはずだ」
あの族長はそんなことを嫌みったらしく言っていた。実際、大きなボア退治なんてモモは、グロースター大公領であるニグレドの森で、スノゥ達とよく狩っていたから慣れっこだ。
もっとも、攻撃魔法は得意ではないから、モモの場合はせいぜいが、昨日族長を閉じこめた丸い結界のようにボアを囲って、やっぱり昨日みたいにごろごろ転がして、獲物の目を回させるぐらいだが。
しかし、これが祖母のスノゥにはとても好評なのだった。
「モモだと無傷で獲物を捕らえてくれるからな。そのほうが上手く血抜き出来て、肉が美味くなる」
なんだそうだ。モモとしては、他の子達みたいに剣や弓で捕らえるほうがかっこいいと思うけど。ちなみにクロウ兄曰く。「あれ見ると俺がやられてるみたいで、妙な気分になる」ってなんとも言えない顔してた。だったらモモをからかうのをやめたらいいのに。
ともあれ、ボア退治なんて勇者と賢者に命じる仕事ではないから、二人とも族長から城を追い出されたのだろう。しばらくお前達の顔など見たくないとばかり。
モモはあんな重苦しい城には居たくなかったし、この世界を見て回りたかったから、この『小旅行』は嬉しかった。
だけど、父である族長の不興を買ったことを、アルパは気にしていないか気になったけれど。
彼は城の外に出るなり、モモに微笑んで話しかけた。
「やはり外の空気はいいね。実は城館にいるより、気ままにこんな風に旅するのが好きなんだ」
モモに内緒話をするみたいに小声でいったのだ。
「子供の頃はよく城を抜け出して、市井の子供達と遊んでね。どろんこになって帰ってきて、城の者達に怒られたものだよ」
「僕も外を歩くのは大好きです」
いつもくっついてくる兄達が時々うっとうしくて、転移して気ままに歩くのはちょっとした気晴らしだった。露店で暑い季節ならジェラートやシルベット。寒い季節なら、熱いショコラを。貴族の子女ならお行儀悪いと顔をしかめられるかもしれないけど、歩きながら食べて呑むのは美味しい。
しばらくすると、匂いをたどってきた兄達にすぐ捕まるけど、その焦った顔をみるのも楽しくて。
ボア退治を待っている村人達を待たせてはいけないけれど、少しの時間ならいいだろうと、城館のある街の市を見て回ろうというアルパの言葉にうなずいた。
そもそも、モモには転移が使えるのに族長は村の正確な座標も教えずに放り出したのだ。つまりは、そこまで歩いていけ。すぐには戻ってくるな! ということだろう。
城館のある場所は、ほぼサンドリゥムの今の王城がある場所だが、街のようすは当然ちがっていた。石造りの城館以外の周りの家々はすべてがせいぜいが二階建ての木造だ。道も石畳など敷かれておらず、重い荷車の車輪の溝が何本もあるような土の道だった。
モモがやってきた現在のサンドリゥムの王都にこの時代の人々が放り込まれたならば魔法の国にでも来たのか? と誤解するかもしれない。大通りには石造りの建物が並び、裏通りでも石畳で舗装されている。魔道具の街灯が夜ともなれば明るく輝くそんな街並みを見たなら。
そんな時代を隔てたとしても、人々が活気よく生活する風景はかわらない。市場を歩けば「安いよ」とあちこちから掛かる声。店先には近くの村から運ばれてきた野菜や果物が並んでいる。
真っ赤に色付いたリンゴが目について思わず見たら、「食べるかい?」とアルパに言われた。
「丸かじりするんだろう?」
「はい!」
それで小ぶりのそれを二つ買った。念のためとモモが浄化の魔法を二つともにかけるとアルパが「ありがとう」という。
モモはこくりとうなずいて、両手でそのリンゴを持ってかじりついた。しゃくしゃくと食べていたら、となりからクスッと笑う声がする。
深くかぶったフードから『なに? 』と無言で見上げる。
「いや、両手で持って食べる姿がなんだか、子リスみたいでね」
「ち、違います! ぼ、僕はう……」
うさ……と言いかけて、モモは慌てて口をつぐむ。幸い周りの喧騒で気付かれてはいないようだ。
ここは自分の生きている現代とは違う。兎族が最弱といわれ、息をひそめるように生きてきた時代だ。それは昨夜のあの族長の言葉でもわかる。
偏見と差別と……。
兎族のたどってきた歴史は、学んで知ってきたつもりだった。だけど、自分が実際にその言葉を受けてみると、ずん……と胸にのしかかるものがある。
祖母のスノゥはこんな世界を生きてきたのか? と。
「……行こうか?」
「はい……」
アルパの大きな手が背に添えられて、モモは歩きはじめた。
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