上 下
172 / 213
末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【21】楽しいお出かけ

しおりを挟む



 アルパとモモの二人は、翌日、城館を追い出された。
 追い出された……というのは違うのかもしれない。『ちょっと田舎』の村の畑を巨大なボアが荒らし回っているからお前達二人で退治してこいと、族長に命じられたのだ。

「勇者と賢者の二人がいれば、いかに化け物のような大きさのボアでも、ひとひねりであろう? 供など必要ないはずだ」

 あの族長はそんなことを嫌みったらしく言っていた。実際、大きなボア退治なんてモモは、グロースター大公領であるニグレドの森で、スノゥ達とよく狩っていたから慣れっこだ。
 もっとも、攻撃魔法は得意ではないから、モモの場合はせいぜいが、昨日族長を閉じこめた丸い結界のようにボアを囲って、やっぱり昨日みたいにごろごろ転がして、獲物の目を回させるぐらいだが。
 しかし、これが祖母のスノゥにはとても好評なのだった。

「モモだと無傷で獲物を捕らえてくれるからな。そのほうが上手く血抜き出来て、肉が美味くなる」

 なんだそうだ。モモとしては、他の子達みたいに剣や弓で捕らえるほうがかっこいいと思うけど。ちなみにクロウ兄曰く。「あれ見ると俺がやられてるみたいで、妙な気分になる」ってなんとも言えない顔してた。だったらモモをからかうのをやめたらいいのに。
 ともあれ、ボア退治なんて勇者と賢者に命じる仕事ではないから、二人とも族長から城を追い出されたのだろう。しばらくお前達の顔など見たくないとばかり。
 モモはあんな重苦しい城には居たくなかったし、この世界を見て回りたかったから、この『小旅行』は嬉しかった。
 だけど、父である族長の不興を買ったことを、アルパは気にしていないか気になったけれど。
 彼は城の外に出るなり、モモに微笑んで話しかけた。

「やはり外の空気はいいね。実は城館にいるより、気ままにこんな風に旅するのが好きなんだ」

 モモに内緒話をするみたいに小声でいったのだ。

「子供の頃はよく城を抜け出して、市井の子供達と遊んでね。どろんこになって帰ってきて、城の者達に怒られたものだよ」
「僕も外を歩くのは大好きです」

 いつもくっついてくる兄達が時々うっとうしくて、転移して気ままに歩くのはちょっとした気晴らしだった。露店で暑い季節ならジェラートやシルベット。寒い季節なら、熱いショコラを。貴族の子女ならお行儀悪いと顔をしかめられるかもしれないけど、歩きながら食べて呑むのは美味しい。
 しばらくすると、匂いをたどってきた兄達にすぐ捕まるけど、その焦った顔をみるのも楽しくて。
 ボア退治を待っている村人達を待たせてはいけないけれど、少しの時間ならいいだろうと、城館のある街の市を見て回ろうというアルパの言葉にうなずいた。
 そもそも、モモには転移が使えるのに族長は村の正確な座標も教えずに放り出したのだ。つまりは、そこまで歩いていけ。すぐには戻ってくるな! ということだろう。

 城館のある場所は、ほぼサンドリゥムの今の王城がある場所だが、街のようすは当然ちがっていた。石造りの城館以外の周りの家々はすべてがせいぜいが二階建ての木造だ。道も石畳など敷かれておらず、重い荷車の車輪の溝が何本もあるような土の道だった。
 モモがやってきた現在のサンドリゥムの王都にこの時代の人々が放り込まれたならば魔法の国にでも来たのか? と誤解するかもしれない。大通りには石造りの建物が並び、裏通りでも石畳で舗装されている。魔道具の街灯が夜ともなれば明るく輝くそんな街並みを見たなら。
 そんな時代を隔てたとしても、人々が活気よく生活する風景はかわらない。市場を歩けば「安いよ」とあちこちから掛かる声。店先には近くの村から運ばれてきた野菜や果物が並んでいる。
 真っ赤に色付いたリンゴが目について思わず見たら、「食べるかい?」とアルパに言われた。

「丸かじりするんだろう?」
「はい!」

 それで小ぶりのそれを二つ買った。念のためとモモが浄化の魔法を二つともにかけるとアルパが「ありがとう」という。
 モモはこくりとうなずいて、両手でそのリンゴを持ってかじりついた。しゃくしゃくと食べていたら、となりからクスッと笑う声がする。
 深くかぶったフードから『なに? 』と無言で見上げる。

「いや、両手で持って食べる姿がなんだか、子リスみたいでね」
「ち、違います! ぼ、僕はう……」

 うさ……と言いかけて、モモは慌てて口をつぐむ。幸い周りの喧騒で気付かれてはいないようだ。
 ここは自分の生きている現代とは違う。兎族が最弱といわれ、息をひそめるように生きてきた時代だ。それは昨夜のあの族長の言葉でもわかる。
 偏見と差別と……。
 兎族のたどってきた歴史は、学んで知ってきたつもりだった。だけど、自分が実際にその言葉を受けてみると、ずん……と胸にのしかかるものがある。
 祖母のスノゥはこんな世界を生きてきたのか? と。

「……行こうか?」
「はい……」

 アルパの大きな手が背に添えられて、モモは歩きはじめた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

悪魔の子と呼ばれ家を追い出されたけど、平民になった先で公爵に溺愛される

ゆう
BL
実の母レイシーの死からレヴナントの暮らしは一変した。継母からは悪魔の子と呼ばれ、周りからは優秀な異母弟と比べられる日々。多少やさぐれながらも自分にできることを頑張るレヴナント。しかし弟が嫡男に決まり自分は家を追い出されることになり...

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。